流転 11

泥棒の狙いから中華ソバの店を外した。

友情や同情ではない。

泥棒すると言う事は、その店が早く潰れると言う事である。

一つの店に蛇口を二つ付けて水を出せば、タンクの水は倍のスピードで無くなる。

全ての店を潰したのでは僕が入れている打ち子が干上がる可能性が高い。

食いつなぐ為に安い打ち子仕事を確保して来た事が無駄になる。

それだけの理由で中華ソバの店を見逃したのである。

多少は付き合いの長さが関係したかもしれない。

手下の中から、泥棒してでも稼ぎたいと言う奴にあたりをつけて声を掛けた。

良心などカケラすら持たないであろう奴らである。

五人がやると言った。

取り分は僕が3割で手下が7割である。

バレて捕まった時の危険のほとんどが手下達にかかる。

それで、この比率は、僕の取りすぎである。

しかし僕の指示通りに泥棒すればバレる可能性は限りなくゼロに近い。

婆さんがドジらない為と言って裏日男や裏中男の店の全ての情報を僕は掴んでいた。

この情報が無い泥棒は、そのうち捕まるのではないだろうか。

捕まらせない方法を考える事で3割の取り分を確保した。

僕にとっては寝ていても出来る遊びであった。

全てのアホどもは僕の為に働けと思っていた。

良心を1番持っていないのは僕だった。

まさか自分に罰が下るとは思ってもいなかった。

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泥棒をするのに都合が良かった店は裏中男の店であった。

彼の管理する店のほとんどが店側の人間と話しを付けて裏ロムやハーネスをパチンコ台に取り付けた訳ではない。

パチンコ屋が営業中の取り付けや、夜中に忍び込んでの取り付けばかりであった。

店側の人間と話しが付いていないと言う事は完璧な見張りがいないと言う事である。

見張る為には自分達で見張りを付けなければいけない。

裏中男の店に見張りがいない事はすぐに知れた。

新しく打ち子で入れた僕の手下に確認作業をさせた。

初日にセットの失敗を理由に初期投資を6千円だと言わせた。

通常一回のセットに掛かる金額は2千円以下である。

それを裏中男は注意一つする事なく見逃した。

次の日、今度は換金を3千円ごまかさせた。

これもあっさり見逃された。

常時の見張りが居ない事は知れたが僕は慎重だった。

同じごまかしを手下に交互に続けさせた。

五日目に裏中男から僕に電話が入る。

「あの打ち子おかしいゾ。最初のセットにお金が掛かり過ぎるヨ。こっちでも注意するけど、そっちでも言っといてくれヨ!ごまかしてたら殺すしかないヨ!」

「あ〜 分かった。ごめんな。怖い事言うなよ。しっかり練習させとくからさ」

陳腐なハッタリ…

見張りが居ない事を確信した。

唯一の見張りは裏中男自身が入れている打ち子だけだろう。

その打ち子と、かぶらなければ泥棒は出来る。

裏中男が管理する、どこの店でも泥棒は可能であった。

しかし打ち子がかぶらない店があった。

それは婆さんが打ち子で入る店である。

婆さん以外が打てば疑われやすい店に二人同時に打ち子を入れる訳がない。

裏中男達に聞き出した情報の中には、他の打ち子が、婆さんと同時に入るかどうかも当然入っていた。

狙いは決まった。

婆さんが打ち子に入る日を狙う。

セット方法は婆さんから全て聞いてある。

泥棒自体は簡単に出来ると思った。

問題は、既に疑いを深くしている店だと言う事だけである。

出し方によっては店側に捕まってしまう。

しかし、これをクリアーするのは、たやすかった。

この当時の確率変動…

いわゆる確変の連チャンは現在の確変とは少し違う。

奇数の数字が三つ揃うと確変に突入する所は同じだが、現在の様に次回の当たりが約束された二連チャン確定ではなく、三連チャン確定であった。

一度、奇数図柄の当たりを引くと、その後二回の当たりが約束された。

奇数図柄を引き続ければ連チャンが止まらないのは現在と同じである。

確変を一度引けば店ごとに違う換金率にもよるが最低でも16000円にはなった。

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