流転 12

店側は箱を高く積み上げる人間を1番警戒している。

完全にバレていれば裏ロムやハーネスは取り外されてしまう。

裏中男達が取り付けた裏ロムやハーネスは情報がまだ業界に知れ渡っていない新しい物が多かった。

店側の疑いと言っても台自体を疑っている訳ではまだないのである。

疑いは、これまでに箱を積み上げた人間の多さに起因する。

裏ロムグループの多くが打ち子の集め方で失敗していた。

色々な所に声を掛けて適当に人を集めるのである。

そこに問題が発生する。

打ち子の紹介者との絡みなどもある。

色々な条件が絡み合い打ち子の一日の手取りが決まる。

相場が一日3万円である。

そこから一台で出す金額を弾き出すと、十万円近く出さなければいけない事になる。

箱数に直すと20箱近い。

そんな人間が日替わりで出し続ければ店側が疑いを持つのも早い。

データー的に疑われる前に、見た目でバレる事が多いのである。

店を潰したくない彼らはやむなく休止期間を取る。

そこに婆さんが入り込んで店側の疑いを散らすのである。

疑いを持たれたくなければ、もっと打ち子を自由に使い廻せなければいけない。

しかし寄せ集めの打ち子達では限界があった。

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そこへいくと僕が入れる手下の打ち子は自由自在に動かせた。

「クビなりたいの?」

その一言で全てを黙らせる。

手下の誰もが、またかと言う顔をする。

源次が言う。

「そんな事ばっかり言ってると、みんなにソッポ向かれますよ… 人として駄目ですよ」

やかましい…

ほっといてくれ!

僕は人の意見など聞きはしなかった。

僕には僕のやり方しか出来ない。

そう思っていた。

手下を打ち子に入れて、三万円分だけ出して帰って来いなどの指示も、僕は平気で出す。

手下の打ち子の手取りは一万円に届かない。

他に打ち子の口があれば続けて行かせたが、無い時期は、それで終わりであった。

文句は一切聞かない。

打ち子の都合を優先に考えると店が潰れるのがどうしても早いのである。

結果、打ち子は食いぶちを無くす。

彼らは僕を自分勝手だとよく言っていた。

先の見えない抜け作どもの言う事など僕の耳には届かなかった。

いや…

届いていた。

実は、いつもショックであった…

しかし顔に出した事は無い。

他の裏ロムグループでは打ち子に一万円しか持たせないで帰らせる事が余り出来ない。

それが全てを悪い方向へ運んでいた。

そうかと思えば、一万円ほどの固定給で使われている打ち子も居るようであった。

安く使える打ち子の時に少なく出して、店側の疑いを晴らす努力をすれば良いのだが、裏中男達はそれもしなかった。

一人十万円出させる事になぜか固執しているようであった。

店側に疑いを持たれない泥棒の方法は箱を積み上げない方法をとる事にした。

セットを一度か二度しか掛けさせないで三万円だけ出す事を目指す方法である。

一度の確変セットで最低16000円。

二度の確変セットで最低32000円。

最初のセットで連チャンが続いて二万円を越えれば二度目のセットはさせない。

例え見張りが居たとしても一度のセットならば見逃すだろうと考えていた。

店側も同じように見逃すだろう。

箱を高く積み上げなければ疑いは浅い。

婆さんが台自体の疑いを晴らしてくれもする。

手下の打ち子が手取りに対して文句を言う事は全く無い。

二万円分出すだけでも、7割が自分の取り分なのである。

連チャンが続けば取り分は更に上がる。

「ツキに賭けろ。欲張ってセット回数を増やす事は絶対やめろ。そうすればバレずに長くやれる」

手下の泥棒は全員が、ある意味、命懸けであった。

「分かりました!」

彼らは僕のコズルイ悪知恵を信用していた。

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