ゴキブリは申し訳なさそうに言った。
「替わりの奴連れて来るから源次は使ってくれよ。兄貴に任されたシノギだから、回収しないとまずいんだよ…」
コイツ本物の馬鹿だ…
僕に泣きを入れたら、弱みにしかならない事に気付いてない…
それに僕が、ウジムシを必死になって助けたと思ってやがる…
まあ、都合が良いか…
「替わりの奴なんかもう知らねえよ。つうか源次もいらねぇよ。ちょっと見たらアイツも震えてたしな。ヘボじゃどうせ稼げないぞ」
「無理か…」
ゴキブリはそう言ってうなだれた。
「一つ聞くけど、お前ら源次から一日いくら回収する積もりなの?」
ゴキブリが何かを期待した顔で答えた。
「いや、あいつには一日2千円も握らせれば良いから、残りは全部回収する積もりなんだよ」
え?
全部…
コイツら…
得体の知れない怒りが込み上げる。
それをグッと飲み込んで言った。
「全部って言ったって、たいして稼げないぞ。お前らと同じ怖がりだかんな」
嫌な顔をしたゴキブリが聞いて来た。
「一日どれぐらい稼げるかな?」
「お前らだったら3万ぐらいだろ。アイツじゃ2万がいっぱいじゃないか。なにしろヘタレは稼げんよ」
「これからカードは、もっと厳しくなるよ。僕のトコの根性ある奴らだって捕まってんだからな。源次が捕まっても困らないのか?金、回収出来なくなるだろ」
「それは困るんだよ。でも捕まっても直ぐ出て来れんだろ?出たらまた直ぐやらせるから、アイツが捕まるのは気にしないで良いから使ってくれよ」
そう言ったゴキブリの顔が歪んで見える。
酷く嫌な顔付きであった。
「さすがゴキブリさんはヤクザだね〜 アンタは結構やる事怖いね」
そう褒めた…
馬鹿はやっぱり喜んだ。
「俺は甘やかさない人間だからよ」
泥棒の僕だって分かる。
お前は人間のクズだ…
イジメる事に決めた。
全てが気にいらない。
「もう一人連れて来るってのは、源次の出した金額の見張りだろ?」
ゴキブリは頷いた。
「でもお前が連れて来る奴はもう使わねえよ」
「頼むよ〜 友達だろ」
そうゴキブリは言った。
一瞬殺意が芽生えた。
冗談でも言われたくない。
コイツに、泣き落としとは言え、友達と言われる僕とは、一体何者であろうか…
自分のやっている事を振り返れば、僕とゴキブリに違いは無い…
体から、力が抜けていく気がした。
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