ひねくれて物事をとらえる性格が災いして、目の前のゴミに見える道具を僕は軽視した。
その後の、僕におびえたリュウの説明も悪かった。
「これは変造カードが始まる何年か前のゴト道具なんだって… ほとんどの店で対策されて、使えなかったりエラーばっかり出るみたいなんだ…」
変造カード以前のゴト道具…
やれっか!
そんなもん!
しかし道具の使用方法を聞いて興味は持った。
「あげるよ。試してみれば?」
そうリュウに言われ僕はそのゴミに見える道具を受け取った。
後日、変造カードをやりながら、その道具が使えると言うスロット台がある数件の店で、一人で試した。
結果は散々で、対策なのか、道具が不良品なのかすら分からなかった。
その中の一軒で、エラーは多発するが、このゴミに見える道具が全くのゴミではない事は知った。
昔のゴト師は大変だったんだな…
僕らのように甘ッチョロイ時代のゴト師に出来る奴は少ないだろうな…
でも…
対策さえなければ僕には出来る…
そう頭の片隅に記憶した。
そして無造作に車のダッシュボードの中に、そのゴミに見える道具をしまった。
しまったのでは無く、気分的には捨てたのである。
前時代のゴト道具は、更に古い物へとなって行った。
僕はこの後、新しい道具ばかりを追い掛けて行く事になる。
ゴト道具の話が終わったので僕は帰る気満々で席を立った。
リュウが慌てて言う。
「待ってよ!俺が一緒にカードやるって話は?」
「あ?なんで?道具の管理で金になるだろが」
「いや… それじゃ足りないんだよ… ホテル買い取る話しが進んじゃってるから…」
「アホかお前… いくら何でも、そんな短期間に金にするのは無理だろ… 一辺断れよ」
リュウがガックリうなだれて言った。
「違約金が発生しちゃうんだよ… なによりも雪に言えないんだ…」
お前はホントにうざいな…
金は貸さないぞ!
「雪ちゃんに言うしかないだろ。いまカードきついの知らないの?他のゴトなんて日当の打ち子しか無いよ」
「打ち子は安すぎるから危なくてもカード一緒にやらしてよ… 雪に内緒で… それを上手く雪に話してよ…」
僕は呆れて言った。
「お前どんだけ甘えんだよ?いくら何でも限度はあるぞ。僕と一緒にやってお前が捕まったら僕は雪ちゃんになんて言えば良いんだ?」
「知らなかったで良いから!捕まったら雪とは終わりになるから諦められる!雪の為に俺が出来る事は、もう体をはる事しかないんだ!」
やめて下さい、メロドラマ。
お寒い演技に、全身に鳥肌が立った。
「それでも今回は諦めろ。今のカードはお前には無理なんだ。〇国人顔で行ったら間違いなく自殺だ。金にしたかったら新しい道具を必死になって探して来いよ。そうすりゃ金になる方法は考えるから」
「もう知り合いの所には全部声掛けてある… でもカードを辞めた奴らが一杯で中々こっちに道具が廻って来ない… そのうえ大勢がやるからすぐにバレてる… この道具だっていつまで持つか分からないよ…」
この時、初めてリュウに言われて、僕は現在いるであろうゴト師の数を考えた。
考えてすぐに戦慄を覚えた。
物凄い数がいる…
テレビで報道されるカード会社の被害額から逆算すると答えが出た。
楽な新しいゴトは奪い合いになる…
足元が崩れ落ちる感覚を覚えた。
ゴトは終わる…
終わらなくても大儲けはもう出来ない…
本気で辞め時を考えなければ捕まるような気がする。
しがみつくのは駄目だと考える自分がいた。
「だったらなおさら今あるゴトで荒稼ぎする方法を考えろ。その道具の管理をしながらカードなんてやる時間もないだろ。とりあえず新しい道具を探しながら管理だけやってろ。何もなくなったらカードもやらせる。それで良いか?」
リュウが残念そうに頷いた。
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