この後打ち子の手配や狙う店や僕の取り分などの話を煮詰めて行った。
狙う店は僕の頭の中に既にいくつもあった。
これまでに僕はパチンコのゴトで東京を中心に相当数のパチンコ屋を廻っている。
東京だけで言うならば23区のパチンコ屋は全て廻っていたのではないだろうか…
抜けていたとしても、ほんの少しである。
捕まらないゴト師はユルい店を見抜く目を持っていた。
ツキは当然持っていなければいけないが、観察の目を持つ事が、捕まらない為に占める比重は重い。
僕はパチンコゴトをやっていた時に見つけたユルい店を忘れていない。
それは今でも目をつむれば思い出す。
公営のギャンブルにおいてセキュリティーが間抜けな所は無い。
簡単に手出しが出来ないセキュリティーが当然のように施されている。
結果、被害額をお客さんにかぶせる事はない。
例え被害が出たとしても公営のギャンブル場がお客さんに被害額をかぶせるとは思えない。
インチキパチンコ業界がイカサマに文句を言った所で僕には笑い話でしかなかった。
イカサマの無いギャンブルなど世の中に存在しない。
僕のようなゴト師は世の中に沢山いたのである。
変造カードによってカード会社が被った被害額はこのころ既に500億円を軽く超えていた。
どれほどのゴト師が育っていたのか…
変造カードが厳しくなりゴト師達の動きが変わり始めていた。
カード会社に良い顔を見せようと、ゴト師達との持ちつもたれつの関係を一方的に破棄したパチンコ屋側に、不幸が降り懸かろうとしていた。
変造カードはいくらやられてもパチンコ屋には儲けしかない。
しかしその他のゴトはパチンコ屋に損害しかもたらさない。
間抜けは消えるがこの世の常である…
結果は見ての通り。
パチンコ屋は今でも存在している。
変造カードが終わってのちに、もの凄い数のゴト師が、パチンコ業界を襲ったはずである。
彼らが消えなかったのはなぜだろうか…
パチンコ業界は変造カードが終わりに近づいて行くと慌ててセキュリティーを充実させ始めた。
遅い…
ゴト師は隙間をスリ抜ける。
僕は頭の中にあったユルい店を呼び出しながら設定切り替えゴトがやりやすいであろう店を思い浮かべた。
これまでにして来た経験が、設定切り替えゴトでは、僕をパチンコ屋より優位に立たせていた。
しかし、スロット台のメーカーが、早い対策に乗り出して来ていた。
設定切り替えゴト道具の話が終わって、リュウがもう一つの道具を手にした。
ゴミ…
リュウが恥ずかしそうに言う。
「これ昔のゴト道具だけど、まだやれるんだって…」
ピンと来た。
コソ泥ホテル王の話を聞いた後だったので僕はリュウの思惑を感じた。
こいつ…
なんでも金にしたくて適当な物持って来やがった…
僕はジト目でリュウを黙って見ていた。
リュウの挙動がすぐに怪しくなった。
それでも僕はジト目を続けた。
リュウが観念したように口を開く。
「違う違う!これはプレゼントだよ!」
「へ〜 お前は男にプレゼントを配る趣味があるのか?少しカマっぽいのはそのせいか?」
「どこがだ!」
「どこ?どこもかしこもだ。男のくせに愛だ恋だを口にする奴は間違いなくオカマだ。僕に告白なんかしやがったら蹴り殺すかんな」
「しないよ!俺には雪がいるよ!」
「いや… お前だけは分からない…」
騒ぐリュウを無視して更に言った。
「お前な… 僕に二度とふざけた事するなよ。次にくだらない知恵を僕に使ったら、その時は敵だとみなす。最初にきちんと全てを話せ。そうすれば悪いようにはしない。分かったか?」
「分かってるよ!分かってるよ!」
そう、リュウは、何度も繰り返していた。
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