流転 59

のちに設定を自由自在に切り替える事が出来る道具は登場するが、この時の道具は、強烈な電波を発信するだけの機械であった。

形状はギンパラの道具に酷似していて弁当箱サイズの物である。

配線のたぐいは無く、弁当箱の上部にアンテナが少し出ていた。

電波の発射ボタンは、手の中に握り込めるほどのリモコンがあった。

そのアンテナをリールの左側付近に近づけて電波を飛ばす。

左下方にある設定ボックスに電波をあてるのではない。

盤面を突き抜けてリール横の配線に電波をあてる。

そして電気系統を全てシャットダウンする。

上手く配線に強烈な電波がのるとスロット台の全ての電気が消える。

しかしスイッチボタンはオンになったままなので少しすると自動で電源が再起動する。

一度強烈な電波を浴びたスロット台は、その時、初期設定に戻っている。

それまで店側がどんな設定にしていたとしても再起動後は設定6になっているのであった。

設定切り替えに一台10秒は掛からない。

店員がやるより早い。

しかし現実は、電波センサーがあり、店員の目やお客さんの目がある為にもう少し時間が掛かる。

それでも設定切り替えだけなら簡単なゴトであった。

なぜなら一瞬のゴトだからである。

スポンサーリンク

ゴトとは、店員やお客さんが沢山いる中で、逃げずに踏み止まってやる物の方が危険である。

それがこの設定切り替えの道具だとゴト師が店内にいる時間は短い。

ゴト師に優位の道具であった。

設定を切り替えた後は誰に打たせても構わない。

捕まる危険はゼロだからである。

電波を飛ばした人間以外が打つならば打ち子を捕まえる証拠は何一つ無い。

仮に店側がその台に疑いを持って打ち子を待たせて点検したとしても問題は無い。

1の設定にしていたはずなのに6の設定になっていても捕まえる事は出来ない。

打ち子がいくらかでもお金を使ってゲームを始めてしまっていたなら、それを止める事は基本的に許されないからである。

一般のお客さんと打ち子の見た目に違いは全く無いのである。

更には、打ち子を止めての、営業中の設定切り替えは完全な法律違反であった。

設定さえ電波で切り替えてしまえばゴト師の勝ちであった。

しかしそれはその日一日だけの話である。

店側が営業中に設定が切り替えられた事にすぐに気づかないとしても、閉店後には必ずと言うほど気づく。

1だった設定が6に変わっていれば、どんな馬鹿でも何かやられた事を知る。

しかし店側はどうやって設定が切り替えられたのかはすぐに分からない。

防犯カメラを見返す。

ばれて情報が広がりやすい道具でもあった。

コメント