家族にお金を仕送りしなくてもリュウの家は問題無かった。
それでも送っていたのは貯金の為である。
日本で悪事を働いている以上、捕まってお金の出所を調べられる事も問題であった。
送った金額は聞かなかったが生活費以外を全て送っていたならば結構な額になっていたはずである。
そのほとんどが僕と組んでやったゴトでの儲けであった。
去年辺りから変造カードの売り上げが落ち込んだ事により、雪ちゃんが国に帰って結婚して、一緒に商売をしようと言い出したと言う。
雪ちゃんも既に相当稼いでいる。
リュウはそれも悪くないと考えて国での仕事を探していた。
そして最近になって良い仕事が見つかった。
「〇〇〇ホテルって知ってる?」
「うん。三流ぐらいのホテルだろ。〇〇にある奴」
〇国にもある、そのホテルの、いくつかの部屋が売りに出されていると言う。
「ワンフロアーの権利を買い取って泊まり賃を俺達の物に出来るんだ」
「は?あのホテル、バラ売りなんかしてんの?」
「してる。コネが無いと売り買い出来ないけど、俺にはコネがある」
随分と豪気な話であった。
コソ泥がホテル王になろうとしているのである。
商売としてどうなのかは分からなかったが好きにしたら良いと思った。
好きにするのは構わないが僕に買わないかなどと言って来たらぶん殴ろうと思っていた。
それならチンケな詐欺話である。
僕をハメるには話が陳腐すぎる。
話を聞いていくと、リュウは、本気で自分達で買うつもりであった。
「なんかチンケな詐欺臭いな」
「それは平気なんだ。友達も買って儲けも出てる。ホテル側とのきちんとした契約だから」
僕は〇国の事を何も知らないので、そう言われたらそれまでである。
何が言いたいのか分からなくなって来ていた。
「じゃあ国帰るのか?」
リュウが俯いた。
さみしいとか言ったらブチ殺す…
うざいを越えて気持ち悪すぎる…
一瞬戦慄を覚えた。
顔を上げてリュウが言った。
「お金家族に使い込まれた!国に一円も無い!」
僕はたまらず吹き出した。
笑っちゃ悪いと思いはするが笑いが止まらない。
僕が爆笑するのでリュウが怒った。
「なんで笑うんだよ!」
笑いを抑え切れないままに言った。
「ホテルの話いらねーじゃん!夢破れたコソ泥ホテル王の話で笑わない奴いるかよ!」
リュウが僕をジトッとした目で見ている。
「やめろ、その顔!笑い死ぬ!」
僕は暫く笑っていた…
人生を賭けた笑い話はすこぶるおもしろかった。
僕の笑いがおさまるのをリュウはジト目でずっと見ていた。
しこたま笑って少し落ち着いた。
リュウがジト目のまま言った。
「もう良いの…?」
「分かったよ。もう笑わないよ」
リュウの目が疑い深げに変わった。
「笑わないって!てかそんな話、僕にしてどうすんの?金なんか貸さないよ。お前みたいな抜け作、危なくってしょうがない」
「家族だぞ!信じるの当たり前だろ!」
「う〜ん、まあね…」
聞けばリュウの家族はひどかった。
リュウが定期的に国に送金するようになると、兄貴はすぐに警察を辞めている。
いや…
兄貴だけでは無く、家族全員が仕事を辞めたのである。
そしてリュウが送金したお金で遊び暮らした。
財産になるような物を買う事無く、ただ皆が遊び暮らしたのである。
この時の日本円は〇国に送ると5倍から8倍の価値があった。
ひと家族ぐらいならば豪遊出来る。
そしてリュウには、お金に手をつけずに、しっかり貯金していると嘘をつき続けた。
鬼のような家族である。
しかしリュウも悪い。
家族には、自分が日本で成功して、ありもしない会社の社長になったと言っていた。
家族はソレを信じて、お金が永久的に送られて来ると錯覚した。
憐れリュウは貧乏人になった。
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