流転 49

全てゴトの為に人付き合いを増やした。

ほとんどの相手は僕をゴト師と知っている。

世の中にはゴト師を利用してアブク銭を手にしようと考える人間が結構いる。

それらの奴らから会いたいと言う打診は紹介者を通じてこれまでに僕の所にいくつも来ていた。

うざいので全て断っていた。

自分も儲かるとしても、利用される事が気に入らない。

充分稼げてもいた。

しかし状況が厳しくなった。

嫌ばかりは言っていられ無かった。

1番僕が求めたのは裏ロムやハーネスを取り付ける為の店を紹介してくれる人物である。

最初はその為だけに人付き合いを増やしたと言って良い。

出会う奴らは、誰もが皆、表面状は悪事など働かないような顔や態度を見せる。

中には超がつくほどの有名人や、テレビに出ずっぱりの芸能人もいた。

どちらの名前を出しても皆がのけ反るだろう。

僕も初めはのけ反った。

パチンコ屋の店員や幹部クラスの人間にも沢山あった。

なぜかパチンコ屋のオーナーにも数人会った。

僕が1番会いたかったパチンコ屋へのパチンコ台納入業者や、システム業者などにも数人会った。

誰もが皆、僕を悪人に全く見えないと言って喜んだ。

僕には全員が薄気味悪い化け物に見えた。

スポンサーリンク

人は人を判定する時に、自分も悪人だとは考えない。

自分なりの道徳で相手を判定する。

不倫をしている人が人の不倫に眉根を寄せる。

引ったくり犯が万引き犯をさげすむ。

痴漢が、ノゾキを笑う。

教育だと言って、子供を叩く親が、電車などで子供を怒鳴る親を見ると、虐待だと騒ぐ。

ゴト師の僕が、犯罪者を嫌う。

勝手だが、人を判定する時に自分は関係無いのである。

僕はそう言う人間だった。

人の悪事が許せない…

自分をかえり見る事が出来なかった。

人付き合いを増やした事でゴト自体は良い方向に転がる事はあった。

しかし人との付き合いが深くなればなるほど僕は人を嫌いになった。

僕の精神はこの辺が限界だった。

対人恐怖症…

赤面…

意味の分からない発汗…

慢性的な吐き気…

首筋に突然訪れる極度の緊張と突っ張り…

テンションの不自然な上下…

まだ大丈夫だと言う自分と、もう無理だと言う自分がせめぎあっていた。

それら全てを気力で振り払った。

最後には必ず【負けん!】と自分を叱咤した。

何に負けたくないのかは分からなかった。

人付き合いを減らす為には新しいゴトが必要だった。

そんな時に、使えないドザエモンから連絡が入った。

電話の向こうでリュウが言う。

「ご飯食べた?」

アクセントやイントネーションはずれるが少し日本語が上手になっている。

単語や文法はカラオケやビデオ映画を沢山見る事で覚えていたようである。

アクセントやイントネーションは僕が話していて少しでもおかしいと感じるたびにツッコミを入れた。

ツッコミが入るたびにリュウはゲンナリとしていた。

「は?何のんきな事言ってんの?新しいゴトはあったのか?」

「ん〜 ある事はあった…」

え?

あんの?

ドザエモンのくせに…

「今どこに居る?」

「家に居る」

「じゃあ行くわ」

「いや… 雪に内緒の話があるんだけど…」

ん?

相変わらずうざいな…

「ふ〜ん。じゃあ迎えに行くから下まで出て来な。焼肉屋でも行くか?」

「うん!」

何が、うんじゃ…

お金は僕が払うんだろが!

マンション前でリュウを車に乗せて個室のある焼肉屋へと向かった。

助手席に座ったリュウの膝の上には手提げ型の紙袋が載っている。

「それ道具か?」

「うん」

「焼肉屋で平気なのか?」

「うん」

「なんのゴトだ?」

「スロットの設定をいじる奴」

スロットか…

遊びでしか僕はスロットをやった事が無かった。

「古い奴も一つある。それと、バ〇ラのゴト道具」

コメント