流転 48

良夫ちゃんは、それらのお金や、食事やプレゼントを、恥ずかしげもなくニヤニヤしながら平気で受け取る…

恐るべき男であった。

そして手下達を、5、6人連れ回すようになって行った。

午後3時までは手下達の変造カードを受付機に通す作業をする。

受付機に通す事に慣れて来ると、一日300枚以上のカードを通していた。

まるで良夫ちゃんは透明人間のようであった。

ここでまた僕の思惑を越えた事が起こった。

良夫ちゃんが使うカードを受付機に通す手下の数が多い事により、良夫ちゃん自身が使えるカードが普通より多いのである。

何もかもが良夫ちゃんに有利に働き始めていた。

カードが余れば玉抜きをする。

この時期に、玉抜き出来るほどのカードを持てたのは、良夫ちゃんだけではないだろうか。

当然儲けも人より多い。

裏ロムの打ち子を終えた婆さんを僕に内緒で呼んで、カードを分けたりもしていた。

たっぷりの食事と、これまでと変わらない稼ぎが良夫ちゃんの顔の血色をバラ色に変えていた。

それに反比例するように僕は寝られない夜を過ごして青くなって行った。

辞めて行く手下や、捕まる手下が、どうしても出るのである。

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僕の起てた作戦が悪かったのか…

なぜ辞める…

なぜ捕まる…

答えは分かっていた。

皆が恐怖を学習するのである。

最初に受付機にカードを通す事が苦痛では無いと言っていた手下達も数回危険な目にあうと腕を縮まらせた。

その時の失敗を次に生かす思考はせずに、ただ震え上がるのである。

そして次第に挙動が不審になる。

当然店員に目をつけられるまでの時間が短くなって行く。

ガードする側も最初は必死にガードしていたが、捕まりそうになる回数が増える度に、やる気を削がれて行った。

そのうち受付機の担当者がコロコロ変わるようになった。

明らかに疑わしい見た目の手下達も受付機の担当をする。

もう罰金などとは言っていられなかった。

罰金を嫌がって辞めると言う奴まで出て来たからである。

こうなると手下達を辞めさせない為に罰金制度をとった事の意味がなくなる。

どんなにガードが受付機担当者を助けようとしても捕まる可能性も上がっている。

僕は手下達から罰金の取り立てなどしたくない。

当然責任も取りたくない。

仕方なく罰金制度は撤廃した。

グループ制度も、仲間内の喧嘩が絶えなくて維持出来なくなっていた。

僕が起てた作戦は、二ヶ月持たずに破綻した。

この時までに捕まった手下は受付機担当の一人だけだった。

辞めた手下は二人ほどであった。

この調子で手下が減るのかと思っていたが予測は悪い方に裏切られた。

次の二ヶ月で逮捕者が四人出て、辞めた奴は五人出たのである。

原因は罰金制度の撤廃だったのではないだろうか。

手下達は、やはり自分が損をしない状況ならば、受付機担当者を必死になって助ける事はしなかった。

危険を感じた手下は、アッサリ辞める道を選んだ。

もう歯止めがきかなかった。

新しい変造カードは、もうすぐ出来上がると噂には聞こえて来ていたが、どこの工場に聞いても出来上がってはいなかった。

変造カードはもう終わりのような気がしていた。

裏ロムやハーネスの打ち子と、たまにあった中華ソバとのレシートゴトで食いつなぐ日々が始まっていた。

僕の稼ぎも全盛期に比べて三分の一ほどに落ち込んでいた。

新しいゴトを探すために嫌いな人付き合いもするようになって行った。

この時の人付き合いが僕の性格をひどく歪めた。

元々歪んでいた性格が更に歪んだのである。

後遺症は今でも僕を苦しめている。

悪人と付き合いを続ければ人の性格は必ず歪む。

僕と付き合った事で性格を歪めた人間も多かったはずである。

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