しばらくざわついていたが文句は出ない。
トドメに言った。
「文句がある奴は消えろ」
全体を見渡すが誰も席を立たない。
彼らに選択肢は無かった。
「じゃあ真面目にグループの組み直しをもう一回してみな。遅いから急げ」
皆が慌てて先程受付機にカードを通す事が苦痛ではないと手を挙げた5人に殺到する。
そこで言い忘れている事に気付いた。
「ちょっと待った!」
皆の動きがピタリと止まる。
「ここに一人受付機にカードを通す天才がいる…」
そう言って僕は良夫ちゃんを指さした。
皆の目が良夫ちゃんに集中して止まった。
半信半疑…
そんな目であった。
良夫ちゃんが物凄い根性をしている事は皆が知っている。
しかしそれ以上にアホな事も皆が知っている。
組む事に不安を感じているのであろう。
僕は良夫ちゃんを高く売る為にもう一言いった。
「本物の天才だ。昼間一軒で一気に30枚通してる。その時はやり過ぎて疑われただけで、その後も15枚を二軒通してる。多分良夫ちゃんを越える奴はいない」
良夫ちゃんが「デヘヘ」と声に出して笑った。
笑い方に知性のカケラも見えない…
皆が良夫ちゃんに殺到した。
お前ら甘い…
僕は大きな声で言った。
「良夫ちゃんと組むには条件がある!」
皆の動きがまた止まって僕を注視する。
うたぐり深い目であった。
良夫ちゃんの利用方法…
それは本当にこのゴトを怖がる奴らと組ませる事である。
どうにか出来る奴らは自分達でやれば良い。
どうしても自分達では出来ない奴がいるはずであった。
ソイツらと良夫ちゃんを組ませる事で辞めて行く人間の数は確実に減らせる。
その上で良夫ちゃんの望む条件も満たす一手があった。
良夫ちゃんの条件…
女性店員ばかりの店。
更なる儲け。
このニ点…
だるい…
「条件聞くか?」
皆が頷く。
「文句は聞かないからな。嫌なら他の奴と組めよ」
更に皆が頷く。
どんだけヘタレやねん…
僕は、がっかりしながら条件を言った。
「良夫ちゃんが受付機に通したカードは一枚100円増し。それと店員が女だけの店を探して来る事。以上…」
皆の目が点になる。
少しするとその点になっていた目が良夫ちゃんを敵視するように睨んでいる。
僕は笑いをこらえて言った。
「おいおい、良夫ちゃんを睨んでも無駄だぞ。僕が決めた事だ。良夫ちゃんと組めって言ってる訳じゃないしな。怖がりが人より悪い条件になる事は犯罪の世界では当たり前の事だ。安心を買いたい奴が良夫ちゃんと組め」
この日良夫ちゃんの人気は全く無かった。
いくら僕が決めた事だと皆に言っても良夫ちゃんを睨む手下達は多かった。
良夫ちゃんと組む手下は一人も居ない。
僕の思惑はハズレた。
お金の上乗せは失敗だったか…
そう思っていた。
しかし、二日、三日と過ぎて行くと様相は一変した。
良夫ちゃんと組みたがる奴がドンドン増える。
現実を目の当たりにしたヘタレの手下達や、受付機にカードを通す事が苦痛ではない奴がいないグループの手下達が、良夫ちゃんと組みたがるようになって行った。
その数は10人に届いた。
僕にとっては嬉しい反面残念な事である。
しかし良夫ちゃんにとってはウハウハであった。
いくら良夫ちゃんが受付機にカードを通す天才でも10人の面倒は見られない。
すると僕の思惑を越えた事がいくつも起こり始めた。
良夫ちゃんと組むための条件が手下達の間で勝手に厳しくなり始めた。
カード代は100円上乗せだったはずが、150円、200円と上がり始める。
カードの値段はそこで止まったが、昼ご飯、夜ご飯付きなどの条件が増えて行った。
しまいには婆さんやハツコや、良夫ちゃんの娘へのプレゼント攻勢まで始まった。
お前ら…
アホか!
死ね!!
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