流転 45

「良し。その担当になった奴が受付機にカードを通すのは決定だからな。話しを聞いた後に変える事は許さない。分かったな?」

担当になった一人が不安げに口を開く。

「危ない時でもですか?あんまり自信ないんですけど…」

「うるせーな… 黙って聞いてろよ… てかお前ら分かったのか?!」

手下達は、今の僕に余計な事を言うと、噛み付かれる事を知ったのではないだろうか。

口々に「分かった…」と返事を返した。

僕は一つ息を吐いてから方法の説明を始めた。

「これからは今決めたグループ単位で動け。単独は許さない。その上で受付機にカードを通す担当者を死守しろ。担当者が捕まったグループは全員クビにする。罰金も取る。言い訳は一切聞かない」

ざわめきが起こる。

担当に選ばれた奴ですら不審な顔をしている。

僕は続けて言った。

「まず担当者が脇目も振らずに受付機にカードを通す。出来るだけバレないようにだ。疑われた事に気付いたら大人しく店を出る。そうやってグループの人数分の店を廻る。僕は最初に担当者は受付機を通すのが苦痛じゃ無い奴を選べって言ったよな… だから当然そんなに簡単には疑われないはずだ。そうだよな!」

最後の言葉にかぶせるように、先程不安を口にした担当者を睨みつけた。

手下達は動揺に包まれた。

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本当は担当者など誰でも良かった。

分かっている事は受付機にカードを通す人間だけに危険が降りかかると言う事だけだった。

必然、捕まる人間を減らす為には、受付機にカードを通している人間を守れば良い事になる。

しかし手下達に仲間を守ると言う感覚は無い。

通常の状態で、自分に危険が降りかからなければ安っぽい友情を見せ合う事はあるだろう。

しかし土壇場になれば必ず見捨てる。

土壇場まで行かなくても自分に少しでも損害が出ると思えばアッサリ見捨てる。

人の物に手を出して良心が咎めない人間とは、そう言う物なのである。

僕は、自分の内面を振り返り、手下達を誰よりも理解していた。

逮捕者を減らすためには仲間を守ると言う事を教え込まなければいけない。

口でいくら助け出せと言った所で彼らは見捨てる。

泥棒同士の友情などと言う安っぽい物に期待は出来ない。

そこには、損か、得か、しか無いのである。

だから助ける事が得で、見捨てる事が損である事を僕は彼らに叩き込む。

そこに、手下達を思う気持ちや友情などは存在しない。

純粋にお金の為だけにである。

「まあそれは後で良いや… 問題は受付機にカードを通してる時に疑われた場合だ…」

手下達は不安な顔をしながらも、聞く姿勢を維持していた。

「受付機にカードを通してる奴が自力で店から出られない事が見てて分かったら、ブロックの奴らは体を張って助け出せ。その時に店員に絶対暴力はふるうな。ブロック役はカードさえ持っていなければ店員に押さえられる事はあっても逮捕される事はない。警察を呼ばれてもすぐに帰れる。暴力をふるわず助け出す方法はいくつかある」

手下達は黙って聞いている。

僕は更に続けた。

「受付機役が店員に体を押さえられてなければ守り役は借金取りの真似をしろ。金返せとか怒鳴りながら受付機役に近づいて髪の毛を引っ張ったりビンタをかましたりしながら店から引っ張り出せ。それで店員はひるむ。カードの点検は必ず諦める。店の外に出たら受付機役の奴は走って逃げろ。守り役は出て来る店員がいたら邪魔しろ」

手下達の顔がア然とした顔になっている。

ざわつかれてもウザいのですぐに言った。

「今日、その方法で良夫ちゃんを僕は助け出した」

皆が良夫ちゃんを見る。

「デヘヘ…」

なぜか良夫ちゃんは照れ笑いで頭を掻いた…

皆が「できんのか?」などと顔を見合わせながら言っている。

「間違いなく出来る!やれ!」

話しだけでは信じられなかっただろうが、良夫ちゃんを例え話しに出した事が、少し良い方向に作用し始めた。

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