「私がカードを余らせて良夫さんがそのカードを私から買う場合はどうするんですかね?あの人は私の値段でカードを買わなければいけない事に気付いていませんね。少し上乗せしても良い訳ですよね」
源次はそれだけ言って笑いながら良夫ちゃんの車の後部座席に消えた。
そうなるな…
僕も一人で笑った。
笑った理由…
そんな正しい理屈を良夫ちゃんが理解する訳が無いと確信していたからである。
源次も僕も良夫ちゃんには敵わないように感じていた。
この後僕は三枚のカードを1時間掛からずに消化した。
文字通り、ただ消化したのである。
何となく打つ前からそんな気がしていた。
公営のギャンブルならば今日僕がやられた金額の何割かが公共事業に使われる。
道路が出来たりする。
パチンコ屋の個人経営者は全てを何に使うのか…
自由である。
アホらしくなってすぐに店を出て喫茶店に行った。
しばらく待ってから源次に連絡をした。
「こっち終わった… そっちは?」
「終わりました。単発一回です。良夫さん電話に出ません…」
またか!!
僕と源次は、この後良夫ちゃんからの連絡も無いままに、更に2時間近く待たされた。
良夫ちゃん不快指数100%!!
迎えに来た良夫ちゃんが聞いてもいないのに言った。
「また2枚で10回出ました!」
良夫ちゃん不快指数200%!!!
100%を軽く越える不快指数とはなんであろうか…
意味の無い事を書いてしまった…
この日良夫ちゃんに待たされた事により集合時間に大幅に遅れた僕は手下達にブー垂れられた。
勘弁してよ…
僕の何が悪かったのさ…
そして、先に書いた手下の一人が捕まった事を聞かされたのである。
厄日だ…
間違い無く、貧乏疫病良夫神の、呪いか何かだと理解した。
良夫ちゃんは生きながらにして神であった。
神を信じぬ僕だったが、貧乏疫病良夫神のオデコになら、賽銭を投げ付けてやりたかった。
そのお金を必死に拾うであろう良夫ちゃんを想像すると僕の頭は悲鳴をあげるのであった。
誰か!
マジで助けてくれ!!
集まった手下達は全員がどんよりとしていた。
捕まった仲間が出ていた事もあるが、やはり受付機に変造カードを通す事が厳しいのである。
更には通ったカードを細切れに使わなければいけない事にも戸惑っていた。
しかし僕の予想に反してカードのエラーに対して不安を唱える奴らは少なかった。
パチンコ屋側の無能を証明しているように感じた。
僕はこの日、一日打ってみて、エラーを解除する度に楽しくなって行く事を自覚していた。
同時に何に対してだか分からないが多少の怒りを覚える。
その小さい怒りが、恐怖を掻き消していた。
手下達も同じような感覚だったのでは無いだろうか。
問題はどう受付機に楽に通すかにかかっていた。
辞める奴らが出る事は覚悟したが人数が余りにも減れば僕の儲けも減ってしまう。
なんとかこの変造カードで手下達を繋ぎ止めなければいけない。
僕は手下達に言った。
「一軒で使えるカードが細切れになるのは諦めろ。ビビりや、見てくれが悪い奴には沢山通す事は無理だ。この中で受付機に通すのが意外と楽だった奴は?」
五人ほどが手を挙げた。
これだけか…
ダメだ…
こいつら…
今日1日パチンコ屋を廻って僕が思い付いた方法が崩壊していく。
思い付いていた方法はカードを通す事を苦にしない奴と厳しい奴をセットで組ませる方法である。
苦にしない奴が受付機にカードを通す。
その間、厳しい奴が体を張って苦にしない奴を守る。
厳しい奴が変造カードを持っていなければ、暴力でも振るわない限り捕まる事は無い。
誰もが考え付くような単純な方法である。
比率は苦にしない奴一人に対して厳しい奴二、三人…
二、三人ならば暴力を振るう事無くガードが出来る…
どちらに取っても損は無いと考えていた。
それが、苦にしない奴が五人…
少な過ぎる…
少なくとも10人以上は欲しかった。
この時僕には他の方法が全く思い付かなかった。
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