「怖くは無いです… でも他にも女ばっかりの店がありますからそっちが良いんです!」
確かに良夫ちゃんは女性従業員ばかりの店なら震える事は無いだろう。
しかしそれでは良夫ちゃんは使えない。
女性従業員中心の店を探すには、どうしても限界がある。
受付機に通す時間が掛かる以上、近い店同士で通せるようにしなければ、出来上がったカードが使いづらい。
店をそれほど選んではいられないのであった。
「辞めたいの?ここで出来ないならもう帰りな。いらないから」
突然のクビ宣告に良夫ちゃんはうろたえた。
そのうろたえ方が余りにも滑稽で少しかわいそうになった。
「しょうがないな〜 カード貸してみな。僕がやって見せてやるから。ホントへたれは疲れるわ」
良夫ちゃんのエンジンに火が付いた。
「自分で行きます!出来ます!」
僕は笑いをこらえて言った。
「あっそ… いってらっしゃい。軽いガードはしてあげるから」
敵を見る目で良夫ちゃんが言った。
「助けられたらお金取られるんですよね…」
「いや… 今日はただで良いよ」
「行ってきます!」
良夫ちゃんは嬉しそうにそう言って店へと向かった。
この時良夫ちゃんのうまい使い方が僕の中で思い付いていた。
僕は間を置かずに良夫ちゃんに続いて店に入った。
受付機の位置は案外と楽そうな位置である。
これなら心配いらない…
良夫ちゃんなら問題無い…
そう思って周りを見回すが、なぜか良夫ちゃんがいない。
ん?
トイレか?
僕もトイレへ行こうと歩いた。
歩きながら店全体の雰囲気を掴む為に周りをボンヤリ見渡した。
通路の反対側に目をやった時に良夫ちゃんが視界に入った。
は?
何やってんだ?
僕は立ち止まって良夫ちゃんを見た。
良夫ちゃんは何かを捜すようにキョロキョロしながら歩いている。
その動きは完全に偵察であった。
あのジジィ…
余計な事を…
受付機から見える範囲には女性従業員しか居なかった。
今なら何の問題も無く良夫ちゃんなら通せるはずである。
それなのに多分良夫ちゃんはワザワザ男性従業員を捜しているのだろう。
馬鹿にもほどがある。
僕は呆れながら良夫ちゃんの元へと歩いた。
良夫ちゃんは僕が後ろから近づいている事に気づいていない。
僕はそっと近づいて良夫ちゃんの耳元でデカイ声をあげた。
「くらっ!!」
「ひぃ〜」
何が、ひぃ〜じゃ…
疲れるわ…
跳び上がってコチラを振り向いた良夫ちゃんの目は限界まで見開かれていた。
僕は当然吹き出した。
良夫ちゃんを外に連れ出して言った。
「ふざけるな!ホントに怖いの!?怖いんじゃないんだろ?なんでワザワザ野郎を捜してんだよ!?」
「女だけの方が安全だからです…」
こいつはホントに…
僕はただ呆れた。
良夫ちゃんは基本的に何をやるのでも馬鹿の一つ覚えである。
一度上手くいった事を何度も繰り返す。
次第にその枠から外れる事はしなくなる。
今回も決して本当に怖い訳では無いはずである。
一度上手くいった事を繰り返したいだけだ。
こうなれば脅ししかない。
男性従業員よりも僕の方が怖い事を分からせる。
「良し。帰ろう。もう良夫ちゃんクビな。ビビりに用ない。邪魔だ!」
「えー!やります、やります!」
「結構です。帰るよ!」
僕は車に向かって歩き出した。
良夫ちゃんが慌てて言った。
「すぐ行って来ます!すぐ行って来ます!」
僕は立ち止まり振り返って言った。
「ラストチャンスだぞ」
「はい!」
良夫ちゃんにはムチだけではダメな事は知っている。
飴…
「この店で残りのカードをすんなり通せたら、もっと金になる方法を教えるよ。物なんか考えないで良いからさっさと通して来な。ぐずぐずしてたら方法は教えない。走れ!」
良夫ちゃんは、すっ飛んで店に向かった。
コメント