あっと言う間に終わった。
僕はこの時も良夫ちゃんから数分遅れで店に入った。
良夫ちゃんは、偵察など一切しない。
女を下等な生き物だと間違いなく認識している。
自分が1番下等だと言う事に気付いていない。
最悪は怒鳴り付ければ良いと思っているのである。
僕から見ると良夫ちゃんは中学生ぐらいの女の子にでも腕力で負けるように見えていた。
頭脳は小学生の低学年レベル以下である。
見える範囲の店員が女性ならば、男性従業員が出て来ないと考える脳みそは、カニみそでは無いのか?
カニに聞かせたら、カニすら気分を害するかもしれない…
しかし、思い込みや、信じる力とは、時に絶大な威力を見せる。
悪びれた様子を一切見せないヨレヨレの年寄りが受付機前に長時間立っても、それに注意を払う店員達は数少なかった。
注意を払う店員にしてもチラミ程度であった。
今にして思えば良夫ちゃんは影の薄い人間だったのでは無いだろうか。
良夫ちゃんがゴトの期間を通じて、やらかしたドジは数知れない。
そのほとんどが有り得ないドジである。
それでいて捕まったのは片手に余る。
ツキもパチンコの引きなどを見ていると尋常では無かった。
1番のツキは僕が良夫ちゃんを、なぜか見捨て無かった事である。
僕は、何者かに、良夫ちゃんを守る為に、ゴトの世界に遣わされた使徒では無かったか?
一軒目を余裕で終わらせた良夫ちゃんが言った。
「ほら〜 もっと出来たじゃないですか〜」
ジジィ…
なぜ僕に文句をたれる…
尻尾を振っている犬は見逃すが、僕に吠えたら最後だぞ…
僕はジトっとした目で良夫ちゃんを見ながら言った。
「あっそ… だったら好きにしなよ。30枚でも100枚でも勝手に通したら良いよ」
「ん?なんかあった時、助けないって言うんですよね?」
「いや… 助けるよ…」
良夫ちゃんが嬉しそうにニヤケながら言った。
「だったら一回に30枚持って行きます!」
「あっそ… でも一つ言っとくけど今度から良夫ちゃんを僕が助けた時は金貰うよ。ん〜 一回5万で良いや。まあ今日のはサービスしとくよ。僕儲かるな〜」
横から源次が口を出す。
「安いんじゃないですか?弁護士に掛かる費用や長い刑務所暮らしを考えると30万でも安いですね」
良夫ちゃんが目玉を剥いて吠えた。
「黙れ!ポコチン!フニャチン!」
源次は相手にせずにソッポを向いた。
僕は良夫ちゃんに更に言った。
「そうだな… 安いな。やっぱ一回10万貰うわ」
良夫ちゃんがイヤイヤをするように何度も首を振りながら言った。
「一回15枚だけにします!ただで助けて下さい!」
僕と源次は二人で吹き出した。
ただでって…
どこか憎めないジジィであった。
次の店に移動して良夫ちゃんが残りの18枚のカードを受付機に通す。
この店での良夫ちゃんの動きは、まるでゴト初心者のような動きであった。
原因は、ほとんど女性従業員しか居ない店なのだが、一人だけ、いかつい男性従業員が居た事である。
意気揚々と店に向かった良夫ちゃんが血相を変えてすぐに店から出て来た。
「男が居ます!」
「そりゃ普通居るだろ… 居ない方が珍しいんだよ」
「この前見た時居ませんでした!」
めんどくさい…
「知らんがな… 時間が勿体ないから早く行って来なよ。移動なんかしないよ」
「え〜〜」
僕は嘲笑うようにニヤニヤしながら言った。
「何?怖いの?へたれ?」
ゴトで稼げている者達は例外無く臆病者だと言われる事を嫌う。
これは良夫ちゃんにも共通していた。
誰も自分を臆病者だとは認めたく無いのである。
ゴト師は例外無く全員内心震えている。
震えないゴト師など居ない。
俺は震えない、震えた事が無いと言うゴト師がいたら会ってみたい。
臆病者の集団である。
それをどうにかごまかしてゴトをする。
僕をも含めて、ミジメで、みっともない集団であった。
意気がった台詞を聞くと笑いが止まらない。
それでも僕が良夫ちゃんの甘えを許す訳が無い。
良夫ちゃんの存在意義は怖がらない事のみである。
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