しかし知恵足らずでも良夫ちゃんだけは違った。
この日僕は源次と良夫ちゃんの三人でパチンコ屋を廻った。
最初に行った店は良夫ちゃんが受付機を通しやすそうだと言った店である。
店に入って受付機の設置してある場所を見て僕も源次もボンヤリした。
源次が僕を見て目で物を言う。
どこが通しやすいんですか?
アホですか?
僕が目で答える。
知ってるくせに〜
受付機はカウンターからも通路の店員達からも丸見えの究めて危険に見える位置に設置されていた。
僕は肘で良夫ちゃんの脇腹を力を入れてどついた。
「いだだ!!」
良夫ちゃんが体を横に、くの字に曲げて痛がる。
時間の無駄をさせた当然の罰である。
大袈裟な痛がりかたに笑いながら良夫ちゃんに顎で外に出るように指示をした。
「なんですか〜 痛いな〜」
源次にも外に出るように指示をして店を出た。
良夫ちゃんが何故この店を選んだかの理由など、どうでも良かった。
どうせくだらない理由なのである。
次は源次さんが探して来た店だな…
そう考えて車に向かった。
良夫ちゃんが車の鍵を開けるのを黙って待つ。
不思議そうに良夫ちゃんが口を開いた。
「え?どこ行くんですか?帰るんですか?」
めんどくさいオッサンである。
「良いから… 乗りなよ。こんなトコ通せる訳ないだろ。アホか?」
良夫ちゃんが驚いた顔で答える。
「え〜?!簡単に通せますよ〜!」
このジジィだけは…
捕まるっての!
忘れたのか?
「ここはいくらなんでも無理だよ。通せても、2、3枚だろ?それじゃ、めんどくさいんだよ!」
源次も横で頷いている。
源次が僕の思いを代弁するように口を開いた。
「まさかを突くつもりなんですよね… 確かに受付機を通すのは、まさかを突くしかないと思います。でもこの店はいくらなんでも酷いですよ。カウンターからも店員からも丸見えだし店員の歩き廻るコースの中に受付機があるんですよ。まさかを突くならカウンターか店員か、どちらか一方だけの人間から見られる店にするべきです。これじゃ間違いなく自殺です」
良夫ちゃんの顔がムッとした。
「黙れ!ちんこ!根性なし!」
源次の顔もムッとした。
源次は決してゴト師として根性なしではない。
逆に良い根性をしている。
熱い物を触っても熱い顔を見せない源次はパチンコ屋でピンチに陥っても平気な顔で店員のスキを探してチャンスと見るや脱兎のごとく逃げ出すのが得意技であった。
その場の判断力と根性に頼ったゴト師である。
また喧嘩が始まるのでは朝からだるくなる。
僕は仕方なく二人の仲裁に入った。
「ここは無理だと思うよ。てか良夫ちゃんはもう店探さないで良いから。僕と源次さんが見つけて来た店を三人で交代で通そう。楽だから良いでしょ?早く鍵開けて…」
良夫ちゃんが僕まで根性無しだと言わんばかりの目で見ている。
このボンクラタヌキ…
いい加減にしろよ…
「何その顔… この店のドコを見て楽だって言ってんの?言ってみ… 納得出来たらやっても良いから…」
良夫ちゃんが得意な顔で答える。
「店員が全部女なんです!だから平気です!」
出た!
男尊女卑!!
僕も源次もア然とした。
僕たちの顔を見て良夫ちゃんは更に得意な顔になっている。
頭をカチ割ってやりたくなった。
「そんなもん関係ねーよ!アホか!」
源次が呆れたように口を開く。
「女性を馬鹿にしてるんですか?仕事にたいして女性は男よりも真面目ですよ… 正義感も女性の方が強いと思います。良夫さんよりは皆間違いなく優秀ですし…」
ぐわ!
アンタも言い過ぎ!
嫌い合う二人…
水と油…
この二人が、わかり合う日は決して来ない…
良夫ちゃんが口を尖らせて吠えた。
「黙れフナムシ!ゲジゲジ!フンコロガシ!」
悪口の中に人間はいなくなった…
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