流転 29

怯まなかった人間は良夫ちゃん一人になった。

ひとしきりどよめいた後に静かになった店内には良夫ちゃんの更に荒くなった鼻息だけが響いていた。

フガー!フゴー!フガーフゴー!ヒィックション!

もう人間を越えた他の生物に僕には見えた…

最後に新しい変造カードを多少でも楽に使えると思えた方法を全員に教えた。

源次と僕でテストに行った時に思い付いたキレ芸と、受付機にカードを通した人間とは別の人間がそのカードを使う方法である。

源次の予想通りキレ芸は僕の信者以外には受け入れられないようであった。

「信じられないなら方法は自分達で好きに考えろ。それと二人組で廻るのも命令じゃない。一人で行ける奴は一人で行っても構わない。逆に多い人間で行くのでも構わない。全部自分達で決めな。ようは捕まらなければ良いだけだ。ノルマは決める。出来ない奴は辞めるしかない。今の段階で辞めたい奴はいるか?」

誰一人辞めるとは言わなかった。

皆がしがみつく事に必死である。

「よし。最初は一日一人3万円使えるカードが持てるように三千円券を33枚渡す。これは意地でも使って来い。やる以上は根性見せろ。出来ない奴はクビかカードの値段を上げる。分かったか?」

数人から文句が出た。

「文句があんなら辞めて良いぞ。退職金は稼がしたよな… 稼がなかった奴は自業自得だ」

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意地でも仕入れたカードは使い切らなければタナカの工場がカードの販売を辞める可能性が高かった。

タナカは自分の顧客にこの時使える変造カードの仕様を言った。

するとほとんどの奴らが仕様が良くなるまで、まだ少し待つと言う。

危険をかえりみない馬鹿は、やはり少ないのであった。

変造カードの製造、販売が見送られる可能性は高かった。

それを防ぐ為には、最低でも、仕入れたカードを余らせる奴には、辞めて貰う以外に、まだ道が無かったのである。

スネ夫の店で最後の荒稼ぎに参加しなかった奴らの不平は消えなかったが僕はそれらを完全に切り捨てた。

甘えなど通らない本当のゴトの始まりであった。

そして変造カードが終わる頃にはハッタリの全てを剥ぎ取られた本物のゴト師が誕生して行く事になる。

変造カードが終わった時の生き残りの内訳を書いておく。

ギンパラの電波組が20人。

変造カード組が20人である。

カード組は、この日集まった人数の半分以下に、その数を減らしていた。

辞めて行った人数と捕まって消えた人数は同数ぐらいであった。

人によっては自殺とも呼べる、第二次、偽造、変造カードゴトが始まる。

初日にいきなり捕まる奴が出た。

捕まった奴は二人で行動していた。

助かった一人から僕に連絡が入る。

「カード使ってたらいきなり囲まれて捕まりました…」

エラー解除の時に捕まったのかと思ったが違う。

僕の言う事を聞かなかったのである。

悪事は真面目にやるのが鉄則…

捕まった手下は自分で受付機に通した変造カードを自分で店で使用した。

その店は受付機に変造カードを通すのが楽だったと言う。

楽に受付機を通った事でこの二人は油断した。

更には店をなめた。

元々がゴト師をやる奴らなど怠け者なのである。

そのうえ馬鹿が多い。

相手が弱そうに見えれば強気に出て、強そうに見えれば、した手に出る。

僕をも含め人種として下等な奴らの集団なのである。

回らない頭で出す答えが楽な道をいつも選ぶ。

移動がめんどくさかったと助かった男は言った。

この時期のパチンコ屋は、まだ受付機に注意をはらっていた。

店員の目ではなく防犯カメラで受付機を見ていたのであろう。

そこに飛び込む抜け作の手下。

捕まるが必然であった。

カードの使い手を変えていれば捕まる事は無かったはずである。

「お前らホントにアホだな。まあ言う事聞かなかったんだから仕方ないな」

他に言う言葉もない。

知恵足らずはこの先も捕まるだろうと覚悟した。

二ヶ月後に拘置所から出た捕まった男を、僕は、あっさり首にした。

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