妄爺の店に着いて泥小僧を泥手に渡しながら言った。
「腕立てやったか?」
「え?いや… やってません…」
「ふ〜ん。罰金50万な。すぐ下ろして来い」
「え!?」
「え、じゃねぇ。裏日男にふんだくられたんだよ!はよしろや!腹筋もしてねぇんだろ!?」
妄爺が横で笑っていた。
いらない恥をかかされた僕がいた。
ウザイので泥小僧とは口も聞かなかった。
この後も僕は変わらずに裏中男や裏日男の店から泥棒する事をやめなかった。
なかでも裏日男の店は徹底的に抜くようになって行った。
少しでもスキが見えれば色々な手下達を使い抜き続けた。
裏日男の管理する店は加速度的に潰れるのが早くなって行った。
それでも誰一人手下達が捕まる事はなかった。
半年もすると、裏日男の管理する店は全て潰れて一軒もなくなった。
その後、裏日男は僕に連絡をして来て飲みに誘う事が度々あった。
何か新しいゴトを紹介でもして欲しかったのであろう。
付き合いとは言え僕は誘いを全て断った。
それに対して裏日男はガタガタ言って来たが、それでも全て断った。
「何の用?忙しいから電話でにして」
「親睦も兼ねてだよ!」
そんなもんいらん…
「いや… そう言うの苦手なんだ。僕酒乱だし。何か良い話しがあったら連絡するね」
お金にならないヤクザに用事は全く無かった。
いつのまにやら裏日男から僕に連絡が来る事はなくなっていた。
間抜けは消えるがこの世の常である。
婆さんが救世主となり受付機設置後の辞めて行く手下達の数は確実に減った。
手下達の手取りは、一回3万円に満たないが、何の取り柄も無い手下達にすれば食いつなぐ事は出来る金額であった。
それでも、交代で色々な手下達を打ち子に送り込んでいたので、月の稼ぎは、打ち子に入れたとしても30万円に満たなかった。
僕も含め、全員の金銭感覚は、それまでに稼ぎ過ぎたあぶく銭により狂っている。
誰一人満足はしていないように見えた。
きつい変造カードでも、やらなければ満足出来る稼ぎにはならなかった。
ここに、もう一人の救世主が現れる。
裏ロムの打ち子をクビになり、ギンパラの電波ゴトには対応出来ず…
アホで年寄りだから一般社会に受け入れ口などあるはずも無く…
そのくせ誰よりも大食い…
女装趣味の変装大好き貧相カーネル…
プッツン命…
そう!
最近嫌われ気味の良夫ちゃんである…
「仕事下さい!」
「無いよ」
その場にガックリと膝をつくのではないかと思える良夫ちゃんの反応であった。
見る度に僕は可笑しくてしょうがなかった。
本当にその場で死にそうな顔になるのである。
受付機設置後の新しい変造カードが出来上がるまでは毎日のように良夫ちゃんの反応を見て楽しんでいた。
実際良夫ちゃんにやらせる事が出来るゴトは全く無かったのである。
手下達を集めて新しい変造カードが出来上がった事を伝えた。
当然良夫ちゃんも交ざっている。
話しの前から既に彼の鼻息は荒い。
落ち着け…
馬じゃないんだから…
どんなドジをやらかすのかを考えると僕は不安になった。
しかしこの男は僕の予想を良い意味でも悪い意味でも裏切るのであった。
今回はタマタマ良い方に針が振れた…
集まった手下達に言った。
「カードは出来たけど、やっぱり受付機は通さないと使えない」
全員の顔に落胆が見える。
「それだけじゃ無い。受付機を通るカードは100枚のうち30枚ぐらいだ」
妄爺の店の中に、どよめきが起こった。
口々に無理だなどと言っている。
その中で良夫ちゃんだけは早くカードを寄越せと言う顔をしていた。
数居る手下達の中で平気な顔をしていたのは10人に満たない。
この段階で辞める人間の数は半分だろうと予測した。
「まだあるぞ…」
皆の顔が不安に包まれ僕を注視する。
店内は静寂に包まれた。
その中で良夫ちゃんの鼻息だけが響いていた。
あんたチクノウ症なのか?
うるさいっての!
「受付機を通って使えるカードでも使えば最後に必ずエラーが出る。カードを抜くには全部鍵を使って抜くしかない。当分はこのカードしか無い」
コメント