本当なら1万円ぐらいづつ上げて行く交渉がしたかったのだが裏日男の怒り方が激しかった為、一気に10万円も上げてしまった。
細かく上げて根負けを誘う積もりであった…
途中の怒りは笑いでごまかす積もりであった…
失敗を感じながら裏日男の反応を待った。
いや…
待つまでもなかった。
20万と僕が言った直後に裏日男の顔はキレていた。
やべ…
もっと怒った!
裏日男が怒鳴る。
吠える。
突っ掛かる。
しかし彼は席は立たなかった。
ちくしょ〜…
もっと渡すのかよ…
やだな…
意地になっている自分がいた。
裏日男の怒声をかい潜り言った。
「そんなモンだって!限界!いっぱい!それ以上はケツ取られたみたいだから払えない!裏日男さん達と仲良く出来なくなる!婆さんも他の打ち子も引きあげるしか無くなる!」
「好きにしろや!捕まえてる小僧絞め上げて金取るからテメェは帰れ!消えろ!!」
この野郎…
最後の刀を抜きやがったな…
頭の中に闇討ちが再燃していた。
足に衝撃が来た。
え!?
蹴られた!?
妄爺の合図の蹴りだった。
しかし一回しか蹴られていない。
チラッと妄爺を見ると椅子に深く腰掛けている。
ん?
ぶつかっただけか?
裏日男は自分が優位に居る事を思い出したのか、余裕を見せて踏ん反り返るように椅子に座っている。
少し経ってまた足に一回衝撃が来た。
二回目の一回蹴りを食らって僕は目が覚めた。
話しが潰れたら妄爺が切り掛かる事を思い出した。
しまった…
この状況が妄爺にはもう無理だと見えたんだ…
まだ平気なのに…
最悪は闇討ちで良いのに…
そうか…
妄爺は闇討ちを知らない…
僕が卑怯者だとは思っていない…
僕に仁義もへったくれもない事を妄爺は知らない…
失敗した…
ケチるんじゃなかった…
一瞬で後悔が頭の中を駆け巡った。
でもなんで蹴りが一回だ?
帰れ帰れと吠える裏日男を無視して妄爺の方に顔を向けた。
視界の中にテーブルの下で握ったり開いたりしている妄爺の手が見えた。
ん?
手で何かを伝えようとしているように見える。
パー
グー
パー
グー
手を開いた後に、その手を気持ち横にスライドさせながら握る。
その繰り返し。
ん?
5… 0… 5… 0…
50?
50万払えか?
その額なら話しがまとまるって言ってんのか?
テーブルの下で妄爺が僕に何かの合図を送った事に裏日男は気付いたのであろう。
吠えるのをやめていた。
僕は妄爺の俯いた横顔を黙って見た。
50でこけたら飛び掛かる気か…
そうだな…
頭を下げずに50万なら充分だ…
元々僕の完敗だったんだ…
よし…
50万でこけたら妄爺を引きずってでも外に出よう…
僕が顔を裏日男に戻そうとすると妄爺はゆっくりと椅子の背もたれから背中を離し前傾姿勢になった。
右手が懐に入るのが見えた。
ずっこけたら妄爺を抑え切れるか分からなくなった。
なるようになる…
そう覚悟して妄爺を睨んでいる裏日男に言った。
「捕まえてる小僧を引き渡してくれ。それなら50万払う。この額で駄目ならもう良い。アンタは敵だと思う事にする。詐欺師扱いされて、殺すだ何だ言われ続けても僕は我慢して来ている。ケツ取りの話しならアンタがヤクザだって絶対引かない。僕はゴト師はやってるけど詐欺師じゃない。我慢が出来ない事もある」
裏日男の顔が怒りで歪んだ。
僕は、妄爺が裏日男に飛び掛かれないように、妄爺の斜め前に向かい立ち上がりながら、裏日男を殺す積もりで睨みながら言った。
「よし… 分かった。好きにしな…」
妄爺の方に体を向けて笑いながら言った。
「帰ろう。無駄だった。もう良い」
妄爺に立てと促したが、裏日男を濁った目で黙って見ている。
切り掛かる気は無いように見えた。
状況を読んだのか、切り掛かるなど最初からハッタリだったのか…
「ほら行こ。すぐにやらなきゃいけない事があるんだ…」
それでも妄爺は席を立たずに裏日男をただ見ている。
手は何も持たないままに懐から抜けていた。
コメント
いやホント、ヒリつきますね。このシーンは妄爺さんのオーラが文章からヒシヒシと伝わってきます。負けず劣らずぽっぽ焼きさんの掛け合いが大好きです。どんな人生を歩んで来られたのかと気になって、実は「僕、勉強してました」でしたか?そちらも読ませて頂いておりました。いつかあの作品にまた出会えたらと楽しみにしております笑
お忙しいとは思いますが、更新頑張って下さい。
ホースケさんコメントありがとうございます。
文章を褒められたり話の感想をもらえるのはとても嬉しく、更新の励みになります。
勉強の方は序盤で強制非公開になったきりなんですよね。あっちもなんとかしないと、とは思うんですけど…。
何とかするにしても、こっちを完結させてからですね。