「お前ヤクザモンにそんだけ生意気な口聞いて覚悟出来てんだろうなぁ…」
「覚悟?なんの?僕を殺すって言ってんの?」
裏日男は物凄い顔で僕を睨んでくる。
笑える。
顔で人は殺せない。
妄爺がさっき言っていた。
【心が人を殺すんだ…】
武器ではなく意思の力…
そうだ…
損得が頭の大半を占めているお前には無理なんだ…
妄爺ほどの腹のくくりはお前には出来ない…
世の中に、そんな腹のくくりが出来るヤクザが、沢山いる訳がない…
キレるヤクザは沢山いるが、ソイツらは腹のくくりでは無く、ただ引けなくなってキレるんだ…
追い込まれてキレるは、そこら辺の中学生でもやる。
妄爺なみな腹のくくりをするヤクザが沢山いるならば僕の負けで良い。
好きにしろ…
そう思った。
話しをまとめる為には追い込み過ぎなければイケる。
キレる手前のスレスレで話す…
「それにこの程度の事で組出すの?組出さないって言わなかったっけ?それって男としてどうなの?みっともなくね?すぐ親父に泣きつくガキじゃないんだから。怖い、怖い…」
僕はボンヤリ裏日男の目を見つめた。
わずかに裏日男の目が戸惑いに揺れていた。
経験の足りないヤクザ…
この手の話しは組を出すのが早いし当然なのである。
その為の組なのである。
恥ずかしい事など、どこにもない。
しかし裏日男は対応を間違えた。
「そんなモン、テメェみたいなガキ相手にいちいち出すか!」
きた!
馬鹿!
お前の勝ちが消えた!
僕はニヤつきそうな顔を必死に抑えて言った。
「へ〜 やっぱり男らしいんだ… 組出さないんだね。僕はアンタのそう言う所が好きなんだ…」
「あ?!」
彼らは男らしいなどの褒め言葉に過敏に反応する。
褒められる事に子供の時から餓えていたのではないか…
少し得意そうな顔になった裏日男の顔を見て笑いが抑え切れない。
笑いをごまかす為に慌てて言った。
「分かった。今回はお金で片付けよ。裏日男さんだって僕がそんな小銭を泥棒させるほど、ひどい奴だとは思ってないでしょ?」
「あン!?」
「え…?本気で僕が小銭を泥棒させたと思ってんの?冗談だよね…」
返事によっては闇討ちに決定する。
目に力を入れて裏日男の目を真っすぐ見つめた。
裏日男が力のない感じで吠えた。
「そこまでは言ってねぇよ… お前のトコの奴がやったって言ってんだよ!」
よし!
勝った!
「あっそ。じゃあ詐欺師って言ったのは謝ってくれよ。間違えました。すいませんって。裏日男さんは間違ったんだから…それなら責任は全部僕が取るよ。でも嫌でしょ?お前のトコの奴だお前のトコの奴だって言い続けてたら話しが先に進まないよ。お互いに引くトコは引いてお金でケリつけるんで良いんじゃないの?最初に言った仲良くやろうってのはこう言う時の事でしょ?」
お金に釣られろ…
まだお前の方が立場は上に見えるだろ…
睨む男は妄爺を、いぶかしげに見ている。
このジジィは何だと言う顔である。
睨む男の視線に釣られて僕は妄爺の方をチラリと見た。
え!?
なんで懐に手入れてんの?
僕は顔を裏日男に戻しながら思った。
返事によっては切る気か?
待て待て…
何が起こっても、もう負けないからやめろよ…
先走るなよ…
頼むよおい…
僕の目は多分泳いでいた。
前を向くと裏日男の目も泳いでいるように見えた。
視線が妄爺の懐あたりを捉えている。
あ!
こいつビビってる!
チャンス!
「ねぇ!金でケリつけようよ!」
裏日男が妄爺から目を切って驚いたように僕を見た。
「ね!」
裏日男は戸惑いを消し切れないまま言った。
「あ〜 そうだな… 今回は金で許してやらぁ…」
良し!
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