流転 21

裏日男の顔には明らかな動揺が見えていた。

突っ立っている睨む男に言った。

「座れって。何立ってんだ。話しづれぇんだよ…」

睨む男は伺いをたてるように裏日男を見ている。

睨む男を放っておいて裏日男に聞いた。

「詐欺師ってなんだよ。答えろ」

裏日男が吠える。

「そいつ何だよ!」

「関係ない。運転手だ。詐欺師ってのは何だって聞いてんだ」

「お前がやらしたんだろって言ってんだ!」

吠えんな…

馬鹿犬が…

暴力は妄爺が抑え込んだ。

この場を僕が支配し始めたように感じていた。

外は熱く内は冷たく…

冷静になればイケる…

ひっくり返せる…

掛け合いだけなら馬鹿犬には負けない。

僕を、いきなり痛めつけずに、話し合いの席を用意した事を後悔させてやる…

「アンタがどこのヤクザか知らんけどふざけた事言うなよ。いくらヤクザでも言って良い事と悪い事があんだろ」

「くそガキ!大人しくしてりゃ調子にのりやがって!」

「怖い怖い。吠えないで良いよ。聞こえるから。皆が何かと思って見てんだろ。みっともねーし。自分がヤクザだってアピールしなきゃ話しも出来ないの?」

裏日男は今にも僕に飛び掛かって来そうな顔で睨んでいる。

僕は妄爺の横顔を黙ってニヤニヤしながら見た。

妄爺も少し笑っていた。

その笑いは、またかと言う笑いである。

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僕には得意技があった。

人をギリギリの所で激怒させずに喋る技である。

それは妄爺の店に来るヤクザ達と話しをする事で鍛えられた物であった。

ヤクザと言う人種に対してどこまで言って平気なのかや怒りをどうかわせば笑いに繋げられるのかは感覚で学んでいた。

妄爺の店に来るヤクザをからかうのは僕の一つの趣味である。

元々喋りは達者な方であったが妄爺の店に来るヤクザをからかう事で鍛えられていた。

妄爺が友達ヤクザが帰った後によく言っていた。

「お前あれは言い過ぎだ。少し考えろ。キレたら俺も庇えない人だって来るんだからな…」

そのキレるかキレないかの間合いを楽しむのが好きであった。

嫌いなヤクザをからかうのが面白くてしかたなかった。

その喋りを周りで聞いている奴らのギョッとした顔を見るのも楽しみであった。

僕は場数を踏んでいた。

裏日男など妄爺の店に来るヤクザ達と比べればチンケなヘボヤクザである。

キレて暴れる事さえ抑えられたら僕の敵では無い。

人によってアクセントやイントネーションを変えて話す。

身振り手振りも状況に合わせて使う。

当然、表情も状況に合わせてコロコロ変える。

強気に出る所は強く出るし、へりくだる所はへりくだる。

相手の性格を少しでも知っていれば、人を激怒させない自分を天才だと思っていた。

経験を積んでいるのは、何もヤクザ達ばかりでは無い。

裏日男が前傾姿勢になりながら吠えた。

「このガキが!!」

それにあわせるように妄爺も前傾姿勢になったように感じた。

しかたない…

武力は妄爺に任せよう…

この状況なら妄爺は裏日男が手を出さなければ動かないと信じた。

裏日男は妄爺の動きを見て何かを間違いなく感じている。

怪訝な顔をして少しのけ反るように座り直した。

一瞬の間があいた。

突っ立っている睨む男に言った。

「座れって」

更に裏日男に問い掛けた。

「コーヒー頼むけど飲む?喉かわいたんだけど」

返事も聞かずに僕たちにおびえて離れた位置でコチラを注視していた店員を呼んだ。

店員が迷惑を隠した顔で横に立った。

「ごめんね。もう、静かにするから。コーヒー四つ頂戴」

はいと言って店員が立ち去る。

裏日男が怒鳴り気味に言った。

「てめぇどうオトシマエ付けんだ!おぅ!コラ!」

「オトシマエなんか知らんよ。詐欺師呼ばわりされてまで、なんで僕が責任取らなきゃいけないの?勘弁してよ」

「お前ホントに舐めてんのか!?」

「舐めて無いよ。だから謝り来てんじゃん。でも、やっても無い事で詐欺師まで言われたら謝る気も失せたよ」

「てめぇのトコのガキが泥棒してんのに、なんだその言い草は!お前舐めてるとホントに殺すぞ!」

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