ファミレスの周りをゆっくりと数周した。
裏日男の仲間だと思われる人影も車も目につく所には居ないようであった。
いきなり拉致の可能性は下がった。
ファミレスの駐車場に自分の車を入れようとすると妄爺が言った。
「どっかのコインパーキングに入れろよ…」
ん?
声のトーンがおかしい。
直前までとは全く違う…
僕は妄爺の顔を見た。
記憶がフラッシュバックする…
元嫁を助けに行った妄爺を迎えに行った時に、転がっている男の横に座って煙草を吸っていた時と同じ顔をしている。
しまった…
連れて来ちゃ駄目だった…
妄爺の目から光が消えていた。
僕は景色が歪むような感覚に襲われた。
「さっきの角のトコに100円パーキングあったぞ。そこ入れよう…」
僕は言われるままに、そのパーキングに車を入れた。
この時、なぜ言われるままに言う事を聞いたのか…
殺気に呑まれた…
駐車場に車を停める。
降りようとする妄爺に釘をさすように言った。
「口も手も出さない約束忘れないでくれよ!」
妄爺は僕をジロリと見ると返事もせずに車を降りた。
くそ!
騙された!
慌てて僕も車を降りた。
車から数歩離れた所で妄爺が見えないファミレスの方向を見ながら立ち止まっている。
「よぉ!約束は!?」
妄爺が笑いながら振り返った。
「やっと恩返しが出来る」
ムカッと来た。
「恩なんか無い!」
恩は僕が受け続けている!
ミジメだった暮らしから僕を救い上げてくれた…
それが例え犯罪だったとしても僕は救われた。
人として世の中に通じない僕を人として扱ってくれた。
アンタは僕に何の見返りも求めなかった。
金をくれと言った事は何度かあったが、アンタは必ず返して寄越した。
アンタが皆の前では僕の事を若と呼び続けている理由だって分かっている。
自分の友達のヤクザ者達や、僕の手下達に自分がケツ持ちだとアピールする為だろう。
そうする事で自分が僕の防波堤になる積もりなんだ…
事実、生意気な口利きをする僕なのに、無理無体な事を言ってくる妄爺の友達ヤクザは居なかった。
その友達ヤクザ達に、平気で言いたい事を言う僕を見て、手下達は僕を何者だと勘違いするんだ…
「恥ずかしいから若とか言わないでくれよ。なんだよ若って…」
「あ?ワカって聞こえる?バカって言ってるつもりなんだけどな」
なんど若と呼ぶなと言ってもアンタは決してやめなかった。
僕はアンタの目に見えない庇護の元で大きくなって来たんだ。
それを僕は自覚していた。
ケツ持ちが要らないなどはお笑い草だった…
僕はいつもアンタに守られていたんだ…
今回も僕が完全に負けると思ったから出て来たんだろ?
恩返しなどと言うのは、頼むからやめてくれ…
妄爺が笑いながら言う。
「恩はあるんだ。俺はお前と出会わなければ間違いなくミジメに野垂れ死にしていた」
「うるせー!約束は守れ!」
笑いをおさめて妄爺が言う。
先ほどと同じ顔に戻っていた。
「約束は守る。でもな… それは俺が見ていて、これは無理だと思うまでだ。それ以上の約束は守らない。無理だと思った時の合図を教えておく…」
「ふざけんな!」
「良いから聞いとけ。合図はテーブルの下でお前の足を二回蹴る。お前は蹴られたら黙って店から出ろ。無駄に巻き添えになる必要はない」
「何言ってんの?頭おかしいんじゃないか?ジジィに何が出来んだ!どっか行けよ!二度と僕の前に現れるな!」
妄爺は表情一つ変えずに言った。
「言いたい事はソレだけか?なら先行くぞ。早く来いよ。相手が待ってる」
「ふざけんなっての!僕を追い出したら何する気なんだよ!」
「仕方ないんだ。お前はヤクザを舐め過ぎた。組織って物を知らな過ぎる。負けを認めなければいけない時もあるんだ。でも負けたくないんだろ?」
妄爺は上着の内側に手を突っ込むように入れて更に続けた。
「ヤクザは確かに怖い。でもな… 首をぶった切られて生きてるヤクザはいないんだ」
妄爺は、そう言いながら懐から抜いた右手を見えない相手の首の、けい動脈を切るように振った。
錯覚なのだろうか…
僕には見えないナタが見えたような気がした。
コメント
モバゲーの時楽しく読んでいて続きが気になって気になって
やっと追いついて来ましたo(^▽^)o
楽しみです
僕さんは現在何をしているのか…
人生色々、波乱万丈の人生…
でもどこか羨ましい
これからも続き楽しみにしてます(﹡ˆ﹀ˆ﹡)♡
Levorgさんこんにちは!コメントありがとうございます!
このブログを発見してくれて、さらに引き続きの応援。
本当に嬉しいです。
これからも宜しくお願いします。