はっきり言って僕に責任は無いのである。
管理責任など知った事ではない。
勝手に泥手が自分の欲だけでやった泥棒の始末などする必要を感じない。
泥手の友達など会った事すらなかった。
その友達を助けると言う事は、罪を認める事になる。
相手は腐ってもヤクザである。
裏日男は確実に僕に逃げられないケツ取りの話しをしてくるだろう。
泥棒を認めた上で助け出さなければいけない人間が居る場合の逆切れは通用しない。
余計おかしい事になる。
泥手が口を開いた。
「あの… 50万ぐらいだったら用意出来ます…」
お金で話しを付ける?
ヤクザに金を払う?
完全に僕の負けか?
裏日男の顔が頭をよぎる。
いやだ…
負けたくない。
出たトコ勝負…
無理か…
勝てる可能性が何も見えない。
それでも泥手を突き出す事はしたくなかった。
泥手の行動が例え僕を裏切る行為でも突き出せば彼は痛い目に会う。
みんなが苦しい時期だった。
泥手は僕の泥棒を真似たのだろう。
自分の管理するハーネスの店は、泥棒されない為に厳しく手下達を脅かしていたが、裏日男や裏中男の管理する店は、僕が率先して泥棒していたのである。
欲も出る…
それが普通の事の様な気がした。
もう少し厳しく止めておくんだった…
友達を見捨てないと言った泥手が僕は嫌いでは無かった。
何度も裏日男から電話が掛かっていた。
催促の電話だろうと思い出ていない。
どうやって切り抜けようか、そればかり考えていた。
思いつかない…
やっぱり金か?
くそったれ!
出たトコ勝負だ!
全く策は無く僕は完全に追い込まれていた。
裏日男からの電話に出た。
やけくそだった。
「もしもし…」
裏日男が吠える。
「なんで電話に出ねぇんだ!!」
ムカッと来た。
「忙しかったんだよ!そんなコソ泥ばなしに、かかり切りになってられっか!」
自分の言葉に仰天した。
プチ逆切れ…
完全なる無責任…
裏日男の吠え声が、一段と強くなった。
笑った…
追い込まれた時の、咄嗟に出る、自分でも何を言っているのか分からない言動が少し好きだった。
笑ったら少し落ち着いた。
「うるさいよ… 今から行くから。どこ行ったら良いの?」
「泥手は居たのかよ!」
「居ないよ。まあとりあえず僕がそっち行くから。どこ?」
場所を聞いた。
ギャンギャン言い続ける裏日男を無視して、もう一度聞いた。
「どこ行きゃ良いの!?」
民家を指定して来ている。
組の事務所か?
やだよ…
「分かりづらい。ファミレスにしてくれ。腹も減ってる」
「お前なめてんのかコラ!!」
なめてない…
びびっとるがな…
周りに人が居なければ、コメツキバッタのように謝りたかった。
しかし周りの視線がソレを許さなかっただけである。
そのうちファミレスでも構わないから来いと偉そうに言って裏日男は電話を切った。
闇討ち…
これまでに何度もシュミレーションして来ている闇討ちの方法が頭の中を駆け巡っていた。
しかしどう考えても、今回の場合は、僕が闇討ちしたと裏日男に知られてしまう。
使えない…
行きつく答えが全てソレであった。
ただ一つだけの可能性を考えていた。
妄爺の店でどこかのヤクザ者が言っていた、人さらいの物語がある。
「ヤクザ掠う時は徹底的にやるんだよ。死ぬか生きるかのギリギリの所まで痛めつけてカタギになるって言わせるんだ。それをビデオにでも撮っといてソイツの弱みにするんだ。体と心に恐怖を植え付けるんだ。ソイツが駄目なヤクザなら、ソレで助かる事もある。まあ、運だな」
運…
僕、ツイてる…
そう思った事を記憶している。
いざ、この場面になってみると、そのヤクザ者が言った話しが嘘やハッタリのように感じてしまう。
人の武勇伝話しは信じないと決めていた。
しかし、負けたくないと思えば思うほど、その物語が頭をよぎる。
とりあえずは泥手を捜している事にして帰って来てから闇討ちに行く…
それしかないのか…
思考を、その後どうなるかの予想に切りかえた。
考えながら妄爺の店を出るために扉へ向かった。
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