店長クラスって誰だ?
一日中見張られているのではないか?
防犯カメラでずっと監視されてる?
一円でもごまかせばホントにバレるのか?
霧の向こう側を想像しきれる奴は少ない。
僕は、それら全ての疑問に答えを突き付ける。
一回目の打ち子は話しの付いた店員が居る時間帯に行かせた。
開始の時間も、台も指定してある。
台が空いていれば、すぐセットを開始するが、一般のお客さんが座っていれば僕に連絡した後、他の台の指定を受ける。
店員には打ち子で入る人間の人相風体は既に伝えてある。
打ち子が台に座ってすぐに店員の監視が始まる。
監視と言ってもたいしたことをする訳ではない。
店員は働いているのである。
余り手間を取らせる訳にはいかない。
打ち子が初当たりまでにおよそいくら使ったかを確認させるだけである。
これは打ち子の台を店員が、2、3度見に行けば簡単に分かる。
初当たりを引くまでに掛かった時間で、およそいくら使ったかが分かるからである。
その後は玉を流してレシートに変えるまで放っておかせる。
店員に必ず確認する様に伝えたのはレシートに記載された玉数であった。
その玉数が分かれば換金金額は当然知れる。
しかし問題はそこでは無い。
全てがハッタリの為である。
打ち子が換金所に並んでいる間に店員から僕に連絡が入る。
「買ったカードが三千円で、玉数34567発です」
これで全てが丸裸であった。
使った金額をごまかしたり、玉一個でもごまかせば簡単に分かる。
しかし毎回こんなに手間を掛ける訳にはいかない。
店員に迷惑が掛かり過ぎる。
換金を終えた打ち子から僕に電話が入った。
僕は打ち子の報告前に先に口を開く。
「おつかれ。使ったのが三千円で玉数34567発だろ。いま連絡が来た。端数の小銭はやるから取っといて良いよ。問題無かったか?」
千里眼…
打ち子は全て観察されていた事を知る。
しかし監視者が誰なのかが分からない。
霧は濃霧に変わる。
一円でもごまかせばヤバいと勘違いする。
意識にすり込まれた得体の知れなさは簡単にぬぐえる物ではない。
「問題ないです…」
「そうか。一つ言い忘れたんだけど今度からレシートの玉数をきちんと覚えて来て報告して。その玉数は絶対に間違えないでな。一度でも間違えばクビだからな。分かった?」
「なんでですか?」
「あ?お前は知らないで良い。分かったのか?」
「分かりました…」
玉数の報告に深い意味など無い。
細かい説明をはぶく事で更なる濃霧に包まれるのである。
最初の一回で泥棒が不可能と勘違いした打ち子達はセット方法を他にもらす事は無かったようである。
店員には、無理せずに打ち子が換金したレシートの玉数が分かった時は報告しろと伝えてある。
玉数が知れる度に打ち子にこちらから玉数を言って監視が毎回行われている様に錯覚させた。
残るは悪意に満ちた泥棒を防ぐだけである。
喧嘩も辞さず…
その気構えで泥棒しようとする奴らがいる。
どちらかと言えば泥棒より強盗に近い。
結果、僕がこの後に取り付けたハーネスの店や、管理だけをした店では、一度も無かった。
正体不明の見張りが居るのでは少し出しただけで見つかり喧嘩になると思ったのではないだろうか。
しかし僕の手下が絡んで裏日男の管理する店で行われた。
これは僕の指示ではない。
僕が一切知らない所で馬鹿な手下が欲をかいた。
そして妄爺をも巻き込んだ事件へと発展して行く事になる。
僕の目から見た裏日男や裏中男の店は丸裸に見えた。
泥棒天国…
いくらでも抜き放題な店すらある。
ヤクザや〇国人が管理する店など、やらなきゃ損なような気がした。
バレる可能性が高いのならばやりはしない。
大金になる訳では無いのである。
しかしこの時期は、食えない手下達や、辞めるしかない手下達が多かった。
僕の儲けもガタ減りしていた。
食い繋ぐ為だけに、あっさりやると決めた。
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