セット方法を僕から直接聞いた人間は数少ない。
リカちゃんや店員にセット方法は教えていない。
二人が組んで泥棒しようと思えば簡単だからである。
常時見張っている訳にはいかない僕のスキなど簡単に突ける。
僕は最初にリカちゃんにはっきりと言ってある。
「セット方法を打ち子に聞いたりして知ろうとするな。お前がセット方法をどんな手段で知ろうとも、知ってる事が確認出来たら敵だと見なす。へたに打ち子に聞いたりするなよ。打ち子の中には僕の信者も居るからな。セットを知った時は覚悟しろよ。必ず痛い目見させる」
リカちゃんは驚いた顔をして言った。
「なにそれ〜!リカの事まで疑って脅すの〜!」
「いや… 脅しじゃない。ホントに起こる事だから予告してるんだ。気をつけろよ。分かったか?」
呆れ顔でリカちゃんが言う。
「分かったわよ!でもアンタってホントにとんでもない人だよね…」
お前が信用出来ないからだ…
人殺しの泥棒女…
「褒めんなよ… 照れる」
「褒めてないよ!ばっかじゃない!」
「馬鹿じゃない。馬鹿はお前だ。ケツでか女。知恵が全部ケツに移動してる」
リカちゃんは、コイツ駄目だと言う顔で僕から離れて行った。
自分が、疑心暗鬼に、とりつかれている事は自覚していた。
どうしても疑う心を捨てられない。
周りは全て犯罪者なのである。
スキを見せれば、間違いなく、ソレぐらいの事はあっさりやってのける様な奴らばかりである。
やられるのが分かっていてやられる事ほど馬鹿な事は無い。
それが犯罪者を信じた結果なら怒りは暴力に変わる。
苦労してハーネスを取り付けたのに、何の苦労もしていない泥棒に、アガリだけを持って行かれたなら許す事は出来ない。
暴力…
しかし僕には無理である…
泥棒は暴力を振るっていない。
ただ少しのお金を失敬しただけである。
ギンパラの電波道具のゴト師狩りの時とは意味が違う。
彼らは暴力も振るった。
泥棒はお金が行き来するだけである。
拉致して下半身不随など考えるだけで恐ろしい。
そこまでの怒りがどうしてもわかない。
最悪を防ぎたくて僕は疑心と言う名の鬼にとりつかれた。
やられなければ暴力を振るう必要は無い。
絶対にやられない為に僕は周りを疑い、脅かし続けた。
しかしこの後、僕は裏日男や裏中男の管理する裏ロムやハーネスの取り付けてある店から泥棒をする。
自分の権利は死守するが人の権利などお構いなしであった。
犯罪者が全て僕の様な物だとは言わない。
僕個人の人間性の問題である。
僕は人として腐っていた。
それがゴト師をやる前からだったのかゴト師をやり始めたからなのか…
それは僕には分からない。
泥棒するなら1番成功する可能性が高いリカちゃんと店員はハッタリで抑え込んだ。
僕が疑いの目で見ている事を伝えられたリカちゃんに、それでも泥棒する知恵や根性などありはしない。
やられても、すぐに気付く自信があった。
残るは僕が送り込んだ手下の打ち子達だけである。
泥棒をする為にはセット方法を知る必要がある以上、手下達が泥棒する気にならなければ、セット方法が外にもれる事はないだろう。
他からもれる事は考えられなかった。
必然的に手下達の口を塞げば泥棒は出来ない事になる。
世間話しですらセット方法を口にする事を止める。
出来るだろうか…
無理な様な気がする。
人の口に戸は建てられぬ…
噂は風にのる…
しかし黙らせるしかない。
二重三重のハッタリと脅しで黙らせる…
僕は打ち子志願者の手下一人一人の身元を初めて聞き出した。
「なんの為だよ?」
打ち子志願者達の多くがそう聞いて来る。
「泥棒を捕まえて拷問に掛けた時、どんな形でもお前の名前が出たら逃がさない為だ。僕はやる時は徹底的にやる。身内をサラってでも仕返しはする。それが例え玉一個でも許さない。その時は、金の請求はしない。もう金では許さない。僕の物に手を出せばどうなるかただ体に分からせる。自分が口が軽いと思うなら打ち子はやらない方が良いぞ。誰かに軽い気持ちで喋れば、もうその先は分からないからな。軽い気持ちで喋った結果が地獄につながるんだ…」
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