流転 7

次の日、婆さんに打ち子の取り分が上がる事を話した。

しかし移動もあると伝えた。

婆さんが言う。

「お金が増えるなら構いません」

はい、聞かなくても分かってました!

更にご褒美もある。

しかしこのご褒美には危険が付きまとうので婆さんが嫌がる可能性がある。

危険なご褒美…

それは泥棒からの泥棒。

僕を一度でも、はめようとした三人組は敵である。

更には、生意気な口利きをしたヤクザなど、倒す対象でしかない。

泥棒からの泥棒に対してパチンコ屋を相手にゴトをやる時以上の良心の痛みを持つ訳もない。

僕はこの時までに、リカちゃんと組んで、一軒だったか二軒だったかのハーネスを取り付けた店を持っていた。

ハーネス取り付けが終わって、1番気掛かりだった事は、セット方法の漏洩と、そのセットを知った人間の泥棒の事であった。

裏ロムもハーネスもセット方法さえ知っていれば誰でも出せてしまうのである。

それを防ぐ為の方法は数少ない。

他の裏ロムグループは泥棒をどう防いでいるのかが、よく分からなかった。

実際に泥棒をして捕まって酷い目にあった人間を数人は知っていたが細かい状況を聞いても分からない事ばかりである。

たまたま裏ロムグループに見つかって制裁を加えられたようにしか思えない事ばかりであった。

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単純に思いつく泥棒を防ぐ方法は、やはり見張りを付けて定期的に見廻る事であった。

リカちゃんと組んでハーネスを取り付けた店には話しの付いた店員が一人いる。

その店員が店に居る時間帯は店員に見張りの役目をさせる事が出来る。

店員の出勤前や退社後だけ見張りを置けば良い事になる。

しかし見張りを置く事が凄く無駄な様な気がした。

当然、日当を払わなければいけないからである。

この当時、裏ロムの付いた店には、必ず見張りがいると言うのが常識の様に言われていた。

それが凄く疑問であった。

確かに泥棒をやりに行って見張りに捕まる奴はいるが、その見張りが、わざわざ日当を払って付けた見張りだとはどうしても思えなかった。

ハッタリでは無いか?

そう思えていた。

見張ると言っても結構大変なのである。

裏ロムやハーネスが取り付いたパチンコ台は、一部を除いて、一般のお客さんが打っても確率通りに当たる。

箱を積み上げる事も普通に起こる。

それを一々チェックする?

チェックには多少なりにもお金が掛かる。

セットは四六時中掛けている訳ではない。

当たりを引いた後は台任せに出しているのである。

セットの確実な確認をしようと見張りがすれば、泥棒と思われるお客さんの近くで、パチンコを打ちながら確認しなければいけない。

泥棒も見張りを気にしながら打っているのが当然であろう。

周りで不審な動きをする人間や、後ろを行ったり来たりする人間が居ればセットをやめてしまう。

見張りが泥棒にバレずにセットの確認をしようと思えば、泥棒の近くの席で、パチンコを知らん顔をしながら打っていて確認するしかない。

一回の確認に数千円掛かる事になるのである。

それを箱を積むお客さんが出る度にやる?

有り得ない…

見張りを付ければ損をする…

費用対効果…

費用に対して効果が薄い…

僕は見張りを付けない事に決めた。

泥棒する気が起きなくなる方法を考えた。

この時、他の裏ロムグループも見張りを付けていないだろうと僕は考えていた。

たまたま他の打ち子や、話しの付いた店員が泥棒を見つけるだけだろうと思った。

見張りをワザワザ付ける裏ロムグループは、あっても少ないと確信した。

泥棒を防ぐ方法を考えた僕には安全に泥棒する方法も見えた。

防御を知れば攻撃もまた見えるのである。

僕の防御は単純であった。

ハッタリと噂を広める事である。

セット方法を知る人間を徹底的に脅かしておくのである。

やれば恐ろしい事になると思えば手を出す人間は間違いなく減るだろうと考えた。

ハッタリや噂を頭に叩き込ませる人間はそれ程多くはない。

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