「なんだそれ?随分自分達に良い話しばっかりしてんね。そんなのあかんよ。婆さんにも僕にも良い事がなんにも無いじゃないか」
裏日男が少し怒った顔で言った。
「だから婆さんも疑われづらくなって長く打ち子が出来るって言ってんだろ!」
「疑われづらくって言うけど婆さんは疑いを全く持たれないから、そうやって使い廻すんだろ?だったら婆さんは何軒も廻るより一軒で打ってる方が楽だよ。それに婆さんには日当払ってる運転手も付いてるから移動なんて嫌がる。今のままで良いよ」
裏日男はイラつきを隠そうともせずに言った。
「だから頼んでんだろが!」
くそヤクザ…
脅せば言う事聞く奴ばかりじゃねえぞ…
「あ〜 頼んでんの… だったらでかい声出さないで。おっかねえから。僕は小心者なんだよ。ヤクザ怖いんだよ」
三人が驚いた顔をしている。
お前、ヤクザと知りながら、その態度なのかと言う顔である。
鼻糞でもホジりながら言いたかったが、恥ずかしいのでニヤニヤしながら言うだけにした。
近くを通り掛かった店員にコーヒーを頼む。
間を空けたい。
店員がコーヒーを注いで離れた所で僕は口を開いた。
「最近婆さんは金が安いから打ち子嫌がってんだよね。変造カードに戻るって言うんだ。僕はそれでも良いかなと思ってる。移動なんて言ったら婆さん嫌がるだろうしね。でも条件によっては婆さんを口説くよ」
裏中男が口を開く。
「条件ってなんですカ?」
僕は目で裏日男に聞く気があるのか尋ねた。
裏日男が小さく頷く。
ズバリ言った。
「婆さんの取り分は7割。それと僕の所に居る人間を10人ぐらい打ち子で使って。一人んトコで三人ほど増やすだけだから出来るでしょ?それならそっちの言う通り婆さんを動かす」
裏日男は最後まで不満気な事を口にしていたが僕は一切折れなかった。
最後には中華ソバと裏中男に口説かれる様に裏日男は渋々頷いた。
婆さんの7割の取り分は次の打ち子からと決まった。
しかし10人の打ち子のほうは、自分達が抱えている打ち子の絡みもあるので、一度には無理だと言われた。
段階を踏んで入れて行くと言う。
それを僕はゴネる事は一切せずに了承した。
僕達の組織の崩壊を婆さんに助けられたと強く意識した。
これまで婆さん達を切らずに来た事が実を結んだ。
打ち子で7割…
まだ安い…
三人組を騙くらかしてでも、婆さんに更なる儲け方を教えてやろうと決めた。
婆さん達への感謝を伝える方法など、お金しかないのであった…
方法問わず…
それが僕の方法である。
急遽思いついたもう一つの条件を三人に言った。
「婆さんは危ない店ばっかり廻るんだから、婆さんが、その日入る店の状況を毎日僕に教えてよ。どうやって裏ロムやハーネスを取り付けたのかや、誰と話しが付いているのかも知りたい。婆さんは少しボケが入ってるから事前に状況を教えておかないとドジる可能性がある。迷惑は掛けたくないから頼むよ」
裏日男が言う。
「めんどくせぇな…」
「年寄りなんだから仕方ないでしょ。だから疑いもそらせるんだし…」
「分かったよ。前の日にでも割り振りが決まったら連絡してやるよ」
にゃろ〜…
偉そうに…
吠えヅラかくなよ…
この世界で、どっちが上か、じきに分からせてやるからな…
「すんませんね。まあ仲良くしてやって下さい。それと組とか出すのやめて下さいね。お互いに金になれば良いだけだから。めんどくさい話しは無しでお付き合いして下さい」
「分かってるよ。一々そんなもん出しゃしねーよ!」
出せ馬鹿…
出さなきゃお前の負け確定だ…
駄目ヤクザ…
頭の回転が鈍い奴だと理解した。
中華ソバだけを残して二人は帰った。
中華ソバが言う。
「メチャクソやめろよ!アイツやくざだって気づいたんだロ!」
吹き出した…
僕は笑いながら思った。
本当のメチャクソはこれからだ…
覚悟しな。
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