二人の話しを聞いていくうちに婆さんが打ち子として完璧なのでは無いかと感じ始めた。
裏中男が言う。
「あのお婆さんは凄いネ!中華ソバに頼んで俺の店でも打ち子をして貰ったんだけど潰れそうだった店が、またやれる様になっタ。お婆さんが打った後だと、その台から店員達のマークが外れるんだヨ!」
裏日男が言う。
「うちんトコも婆さんが打ち子で行くと店長達が安心すんだよ。他の打ち子と替わりばんこなら台を休ませなくても良いって言いやがる」
なんでだ?
婆さん、なんかやってんのか?
この時は意味がよく分からなかった。
ハツコを使い百発百中の失敗しないセットを掛けられる事が婆さんの株を上げているように感じただけであった。
しかし、コイツらが婆さんを必要としている事だけは、はっきりと理解した。
僕に弱みを見せたら負けだよ…
そう思った。
「そんで今日は何の用なの?」
裏日男が口を開く。
「俺達三人のトコのグループで婆さんを使い回したいんだけど駄目かな?普通の打ち子とちょっと違う使い方になるから、アンタに断っておこうと思ってよ」
「あ?使い回すだ?婆さんは物じゃねーぞ… ふざけた口聞くなよ。アンタがどこの誰だとか関係ねーぞ。年寄りは敬え」
などと心にも無い事を言ってみた。
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交渉を優位に進める為には、相手の間違った言葉じりを捕えて、道徳的な部分から責める事で自分が優位に立つと僕は信じていた。
裏日男は少し怯んだ。
自分をヤクザと理解した上で強気なセリフを口にする僕の正体が分からないのであろう。
彼から見た僕の見た目は間違いなく弱っちそうに見えているはずである。
なぜ強気?
後ろに何かいるのか?
人はいっぱい抱えているようだ…
婆さんを物扱いに言ったのはまずかったか…
そんな感想を裏日男は持ったのではないだろうか。
だから彼は少し怯んだ。
コイツたいしたことないな…
そう思った。
明らかに年下に見える僕に裏日男は謝れないであろう。
中華ソバも裏中男も見ている。
彼らは裏日男がヤクザだと知っているのであろう。
少し慌てた雰囲気で僕を見ている。
僕は交渉を潰さない為に笑いながら口を開いた。
謝らせるのが目的ではない。
裏ロムやハーネスの打ち子の口を、婆さんを使い多数確保する事が目的になっていた。
「僕は年寄りだけは大事にしたいんだ。あんまり酷い事は言わないようにしてね。頼むよ…」
どうだ…
謝りやすくなっただろ…
裏日男が安堵したように口を開いた。
「すまん、すまん、悪かったな」
単細胞は扱いやすい。
僕は馬鹿を相手にした時、決定的な部分で激怒させない様に話す事が得意であった。
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婆さんをどう使い回したいのか聞いた。
裏日男が口を開く。
「婆さんには一日で俺達三人の面倒見てる店を一軒づつ廻って貰いたいんだ。一軒辺りの出す金額を下げれば三軒は廻れるだろ?婆さんの取り分は6割のままで良いからよ。婆さんも長く同じ店にいるより疑われる可能性が下がるしな」
アホか?
ひっかかる訳ないだろが…
コイツらは6割の取り分で一日中婆さんに打たせていると儲けが薄い事に気付いた。
だから婆さんに、一日、2、3時間打たせて疑いをはらせた後は自分達が抱えている3割の打ち子を入れるのであろう。
婆さんを心配する様なセリフは後付けだ…
コイツらホントに婆さんを自分達の都合良く使い回す気だ…
ふざけるな…
婆さんを使い回す権利があるのは僕だけだ…
今までどれだけ婆さんの面倒を見て来たと思っている…
お前達なら三日で逃げ出してる…
良夫ちゃんを含めて、必ずお前らなら、とっくに絞め上げてる…
間違いねー!!
それがやっと僕の為に役にたつ…
譲れない…
いや…
譲らない…
僕が婆さんを使い回す!!
過労死させる!!
てか婆さんしぶといから平気!
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