しかし二人は儲けの為だけにカードを人に売るのでは無かった。
二人が声を掛けてカードを売る相手は、勝手に悪いと思い込んでいる、パチンコ屋にやられている奴らだけにである。
婆さんと良夫ちゃんは、自分達が正義で、パチンコ屋が悪だと本気で思っていた。
それが信じがたい堂々とした二人のゴト師スタイルの根幹であった。
二人は自分に都合よく物を考える。
僕はパチンコ屋を敵視する為に自分を洗脳し続けたが二人に洗脳などは必要無かった。
天職ゴト師…
僕にはそう見えた。
罪の意識が無く、お喋り好きな婆さんは裏ロムの打ち子に入った店でも堂々としている。
良夫ちゃんが居ない為、話し相手は店員や周りのお客さんであった。
顔を覚えられる事が不利になる打ち子としては、人に話し掛けるなど有り得ない。
しかし婆さんのボケた老人キャラが全てを許していた。
打ち子に入った初日に婆さんは、店員をも巻き込んで、いつもすぐに常連のような扱いになっていた。
よく当たるお婆ちゃん…
引きの強いお婆ちゃん…
それが婆さんの正体を知らない周りの人達の認識のようであった。
究極の打ち子は、こうして誕生した。
間違い無く、ただの偶然の産物だろう…
婆さんの人気が裏ロムグループの間で段々と上がり始めた。
その時期は、受付機が設置されて、手下達が辞めて行く時期に重なっている。
僕は何とかして手下達を辞めさせない為に、安い裏ロム打ち子の仕事でも構わないと思い、色々な所に声を掛けて打ち子の口を探している時期であった。
安い打ち子とは言え日当は3万円近くなる。
普通の仕事よりは楽にお金になるのである。
辞めるしか無い手下達を打ち子で食いつなげさせている間に新しいゴトを探そうと思っていた。
そんな時期に中華ソバから食事の誘いが来た。
「知り合いの二つの裏ロムグループの人達が打ち子の事で話しがしたいって言ってル。出て来いヨ」
この時までに中華ソバの所に五人ほど打ち子で手下を送り込んでいた。
誰かなんかやったか?
婆さんか?
可能性は高い…
「なんの文句だ?」
「文句じゃ無いヨ!良い話しだヨ!」
信用ならん…
〇国人達と付き合っていれば、いつか揉めるような気がする。
ゴトを始めるようになって、僕は人種差別を普通にするようになっていた。
また中華ソバは高級中華料理店を指定して来たのだが、ヘドが出るので近くのファミレスを指定した。
僕はどんなにお金を稼いでも金持ちの暮らしが苦手であった。
ファミレスの席で中華ソバと裏ロムグループの二人に会った。
一人は〇国人で、一人は日本人である。
「こんちは」
ロクデナシどもへの挨拶などいつも適当であった。
へたに丁寧な挨拶などしたら、その後が喋りづらくなる。
相手がヤクザの場合は、最初の喋り方がその後も続くのが普通であった。
最初に、した手に出てしまえば、それが当然のようになってしまう。
それだけは避けたい。
少しぐらい礼儀を知らない生意気な奴だと思われている方が、取引や交渉には都合が良かった。
まずければ少しづつ直していけば良いのである。
裏中男は愛想よく答えたが、裏日男の態度は悪かった。
こいつヤクザか?
目付きのキツさがカタギでは無いように感じる。
僕はボンヤリ見返した。
ヤクザなど妄爺の店で腐るほど見ている。
このころになると、どんなにブルドック顔のヤクザに出会っても怖くは無くなっていた。
揉めたら、とりあえず、その場はした手に出て、あとで闇討ちにしてやろうと決めていた。
当然、僕がやったようには見せない方法をとる。
暴力は卑怯が1番。
ヤクザの仁義やルールに乗るなど冗談ではない。
彼らの土俵で戦えば負ける。
負けるのは嫌いである。
卑怯でも、僕は僕のルールだけを守る。
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