「隣りの人、入れられたカードが変造カードって知ってんの?」
「言ってません」
「使い終わったカードはどうしたの?」
「私が受け取りました」
とりあえず問題は無いようであった。
しかしそう言う問題では無い。
エラーが出た場合どうする積もりだったのか…
入れられたカードが変造カードだと隣人に気づかれた場合どうする積もりだったのか…
婆さんが言う。
「エラーなんか出ませんよ」
そりゃアンタの希望だ!
出る時は出るんだ!!
頭の血管が切れそうになる。
こんな所で脳溢血でくたばっている場合では無い。
二人にみとられるのでは死んでも死に切れない…
興奮するなと自分に言い聞かせる。
「気づかれたって自分が得したんだから喜びますよ」
いやいや…
喜ばんだろ…
普通はビビるぞ…
もしもエラーが出て婆さんが鍵を捻ってカードを抜こう物なら隣人は腰を抜かすのではないか?
「3枚目のカードを入れた時に、これなんのカードって聞かれましたけど笑ってごまかしておきました」
ごまかせてねーよ!
気づかれてんじゃん!!
「それ気づかれてるよ…」
「そうかしら?そうね… 4枚目を入れてあげようとしたら突然あんなにハマった台なのに捨てて帰ったのよ…」
チクりに行ったんじゃねーのか!?
「ソイツについて行った?」
「なんでですか?行きません。私出てましたから」
話しにならんババアである。
間違いなくツキで助かったような気がする。
それとも婆さんは、きちんと人を見極めたのだろうか?
後に、婆さんは人を見極めたんだと僕は思うようになる。
この日は細かい注意を、しつこくして、二度とやるなと言った。
この時僕は冗談の積もりで余計な事を言った。
「ただでやらないで変造カード売ってやるって言えば良いんだよ。客にした方が良いよ。僕からお母さん達が買ったカードの値段にいくらか乗せて売るのさ。自分達のその日のカード代ぐらいにはなるし、その人だって喜ぶだろ」
良夫ちゃんが言う。
「それ良いですね!儲かりますね!」
しまった…
店ん中で客引きするかも…
婆さんが言う。
「ホントにそれは良いですね。悪いパチンコ屋さんに騙されている人いっぱいいますものね。みんな安いカードでやった方が良いのよね」
やばい!
二人でノリノリだ!!
止めなきゃ!
「冗談だよ。知らない人に売ったりしちゃ駄目だよ!捕まるよ!分かった!?」
二人は声を揃えて分かりましたと言った。
しかし、当然これもスルーであった。
それからの二人は、パチンコ屋で仲良くなったお客さんの中にハマッている人がいると、変造カードを売ろうとする様になった。
「駄目だって言ったじゃん!」
婆さんがしょんぼり答える。
「あの人かわいそうだったの… 五万円使ってなんにも出てないの… お子さんも三人居るって言ってたし。あそこのパチンコ屋さんは悪い店なのよ」
悪かねーだろ…
五万使って何にも出ない店なんて普通だよ!
子供が三人も居て五万もパチンコする奴の方が悪いだろ!
てか人に良い悪いなんて僕ら言えんだろ!
婆さんの中では、出さないパチンコ屋が1番悪くて、ゴトをしている自分達は、当然の事をしていると認識している。
この店内での客引きで、お客さんにチクりに行かれた事は一度もないようであった。
ほとんどの人達が婆さん達から離れて行くだけである。
一応、人は選んでいたのであろう。
中には婆さん達の客になった奴も数人いる。
僕は時間が経つに従い二人の変造カードの仕入れ値段を下げて行ったので数人の客とは言え毎日結構な儲けになっていた。
変造カードを売る客を探して歩く方が自分達でゴトをするより婆さん達の儲けは上がったはずである。
恥ずかしいと言う事を知らない二人は優秀な営業マンであった
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