婆さんが罪を意識していれば動きに不自然な所が出るであろう。
罪の意識…
なんだそれ?
婆さんや良夫ちゃんにそんな物はカケラも無い。
いや…
ある事はあるのだろうが僕に見せた事は無い。
婆さんと良夫ちゃんはお喋り好きである。
ゴト中であろうが車で移動中であろうが良夫ちゃんと二人でペチャクチャと意味の分からない会話をずっとしている。
何が楽しいのか笑っている事が多い。
「昨日はテレビの画面がパチンコ台に見えたのよ。疲れてるのかしらね?」
良夫ちゃんが言う。
「寝ても覚めてもパチンコ出来て良かったね」
二人は声を揃えて笑う。
なぜ笑う…?
ボケの徴候やがな…
てか既にやばくね?
婆さんのボケた前フリにたいして良夫ちゃんのトンチンカンな返事が返る。
聞いている分には笑えるのだが会話自体に中身は全く伺えない。
この二人は、ただお喋り好きなのである。
移動の際に僕が話し相手に選ばれる時がある。
「今日はイワシ雲が美味しそうね〜」
頼むからやめてくれ…
頭がおかしくなる…
何もしていないうちから疲れてしまうのであった。
このお喋り好きはゴトの最中にも発揮される。
恐ろしい事に、話し相手を選ばないのであった。
僕がいくら言っても変造カードをやりながら二人は並んでペチャクチャと話しながら打つ。
言っても言ってもやめない。
店側に疑われた時、芋づる式に捕まってしまう。
しかし、並んでお喋りしながら打つ事だけは何度言っても決してやめなかった。
罪の意識など二人が持っていないと感じた1番の理由である。
二人だけでペチャクチャやっているのであれば僕も見てみぬ振りをする。
しかし二人は平気で店員や周りに座るお客さんにまで喋り掛ける。
老人に話し掛けられて冷たく突き放す人間は結構少ない。
この国は善人で溢れている。
相手の反応が良かったりすれば恐ろしい事まで起こす。
ある時、隣りに座っていたお客さんと婆さんが仲良くなった。
よく見る光景である。
僕は二人が周りのお客さんとお喋りする事も止めていた。
何かあった時に周りに顔を覚えられている事は、百害あって一利無しである。
二人はこれも華麗にスルーを決める。
スルー
スルー
スルー
スルー
なめんじゃねーー!!
アホちんこ!!
失礼…
ただ今、不適切な発言があった事をお詫びします。
しかし、僕の気持ちも分かってくれ…
大変な奴らだったのだ…
仲良くなった隣りのお客さんが結構な金額をハマっていたと帰りの車の中で婆さんが言い出した。
パチンコ屋にたいして頭に来たと言う。
僕はボンヤリ聞いていた。
「だからカード3枚入れてあげたのよ。それでも出ないのよ。あの店は悪い店ね!」
は?
なんて!?
僕は慌てて聞いた。
「入れてあげた?なにを?どこに?!」
「カードよ。お金使わせたらかわいそうでしょ?」
嘘だろ…
「カードって?変造カード?」
「そうよ」
えーー!
嘘でしょ!?
良夫ちゃんが言う。
「良い事したね」
良かねーよ!!
駄目に決まってんだろーが!!
「それマジで言ってんの?」
普段から嘘かホントか分からない事ばかり二人は言っているのである。
「ホントよ。あの人かわいそうな人なの」
クソババァ!
お前の回らない頭の方がかわいそうじゃ!
どうやってカードをサンドに入れてやったかなど細かく婆さんに聞いた。
隣のお客さんは遠慮深かったと言う。
常識があれば普通はそうだ…
だから婆さんが遠慮する隣人を押し切って無理矢理サンドにカードを入れてやったと言う。
知らぬ間にゴト師…
どこかで聞いた事のあるセリフ…
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