新しい生活を捨てて、ゴトに戻る理由は簡単である。
確実に変造カードが出来るのであれば、まともな仕事など馬鹿らしくなるほど変造カードは稼げるからである。
どんなにきついカードでも、やれば一日、最低でも、3、4万円にはなった。
しかし、間を空けた手下達を誘う事は、してはいけないと思った。
螺旋は僕が断ち切る。
その後、僕は、一度辞めると言った手下達を二度と誘う事をやめた。
人が減れば僕のカードの売り上げが減る。
本音は無理矢理にでも戻らせたかった。
しかし、それだけはしたく無かった。
手下達を一度でも辞める方向へ向かわせない事が僕の残された儲けの道だと理解した。
その為には新しいゴトを用意する必要が急務である。
しかし、受付機設置直後から暫くの間は、減り行く手下達を黙って見送る事しか出来なかった。
終わりは、すぐ目の前に来ているような気がしていた。
この転換期に僕や組織の崩壊を救った奴らが何人かいる。
その一人が、あろう事か僕の嫌いなリカちゃんであった。
彼女がいつもの様に僕に相談に来た。
「あのさ、話しの付いた男の店に、電波のセンサーが付いちゃったんだよね。裏ロムとかハーネスってどうやんだっけ?」
前に教えたろ…
一度で覚えろよ…
そう言いそうになった。
しかしギリギリで言葉を飲み込んだ。
コイツは使えると言う事に気付いたからである。
「僕と組め。リカちゃん一人じゃ無理だ。お前は頭が悪すぎる。ドジれば損するぞ」
「やだよ。アンタに分け前取られるじゃん」
「4分6で良い。サービスだ」
リカちゃんは驚いた顔をして言った。
「ばっかじゃないの〜!4分も渡す訳無いじゃん!」
「アホか?僕が6だ。だからお前は馬鹿だって言ってんだ。僕のような天才が馬鹿と組んでやるんだぞ。6でも安い。それだけじゃ無い。お前は根性も腐ってる。嘘ばっかりつくし、見た目も中途半端。足も多分臭い。人殺しだしな。お前は最低な奴なんだよ。ん… やっぱり7分だな」
リカちゃんの驚いた顔は更に驚きを増している。
目が大きく見開かれ口がポカンと開いている。
まさに驚愕…
周りに嘘泣きで泣き付ける奴は誰もいない。
開店前の妄爺の店で、まだ誰も来ていなかった。
面と向かってここまで言われた事は今まで無いのであろう。
僕もリカちゃんに面と向かって初めて人殺しまで言った。
リカちゃんの目に力が戻った。
きつい目付きである。
「リカ!人なんて殺して無いもん!!」
「ごまかすな… お前が殺したんだ。自分をごまかせてないのが見える」
「なんでそんな事言うのよ!」
「組む以上、僕がお前に対して思っている事を全部言っただけだ。まだまだあるけどな」
「アンタなんかと組む訳ないじゃん!」
「いや… お前は僕と組む。人殺しを許して、なお組もうと言っている僕をお前は無下に出来ない。本当のお前は良い奴だ」
落として持ち上げる…
人は揺さ振りに弱い。
熱くなったら負けなんだ…
感情の揺れは、冷静さのみが抑える。
リカちゃんは、許すと言う言葉に反応したのか、良い奴だと言う言葉に反応したのか、おとなしくなった。
「お前も探せば裏ロムやハーネスは手に入れる事が出来るだろ?でもその後どうする?取り付け方の方法は?道具屋から聞いた程度じゃ理解仕切れないぞ。店によって出す金額をきちんと計算出来るか?打ち子の管理は?揉めた時は?いちいちヤクザモンに頼むのか?ヤクザに裏ロムの付いてる店を知られて平気か?タカラれないか?裏ロムやハーネスは、最終的に取り付けた人間を見切る事になる。その時、お前は店員に自分を知られ過ぎてないか?そいつは警察に突き出されても、お前を庇うと確信を持って言えるか?人はそんなに信用出来る生き物か?まだまだあるぞ。僕は大丈夫だ。お前を守る事が僕の利益に繋がるからだ。全て僕に任せれば上手く行く。取り分は折半で良い。よく考えろ。買って来るけど
缶コーヒー飲むか?」
「う、うん…」
僕は缶コーヒーを買う為に妄爺の店を出た。
リカちゃんの返事は既に分かっていた。
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