僕は徹底的にパチンコ屋を敵視し続けた。
しかし本音は、パチンコ屋をインチキだなどと思ってはいない。
国を相手に、合法と言う名の大河を泳ぎ切った、ある意味彼らは英雄である。
僕達ゴト師は、100年経っても、合法と言う名の大河を泳ぎ切る事は出来ない。
彼らを尊敬すらしていた。
それでも僕は彼らを徹底的に敵視した。
良心など持つ訳にはいかない。
同情や憐れみや、罪の意識を抱けば腕が縮んでしまう。
お客さんが殆ど居ない店で、僕達がその日ゴトをやれば、間違いなくその店のその日の売上を全て奪う事になったとしても、やりやすいと言う理由さえあれば限界まで抜くのである。
パチンコ屋を敵視し続けていなければ、僕にはゴトを続けて行く事が苦痛であった。
自分を洗脳し続けていなければ、僕は確実に捕まっていた。
人の痛みは100年耐える。
繰り返す悪事の中で、自分を洗脳する為に作り上げた言葉である。
洗脳は、自分だけに、ほどこす訳では無い。
当然、怖がる全ての手下達に対しても、ほどこすのである。
パチンコ屋を敵視する為の根拠さえあれば、僕は繰り返し声高に手下達を洗脳し続けた。
そうやって、戦える集団を作り上げて行った。
全て自分の儲けの為である。
リカちゃんを洗脳した事は無い。
彼女は僕より数段強い女であった。
受付機設置後、変造カードは、カード会社の対策や、変造カード工場の攻略で、2転、3転、4転、5転…と繰り返し、使用量を減らしながらも1年近く続いて行く。
イタチごっこである。
変造カードの使用システムや形状は様々であった。
どの時期に、どのシステムのカードだったのかは既に覚えていない。
カードの形状は、殆どが使えば自殺の様なカードや、笑い話しの様なカードだったので覚えている。
良夫ちゃんが言う。
「システムが理解出来ません」
やっぱりね…
アホだもんね!
更に言う。
「このカードは怖いです」
良夫ちゃんをも震え上がらせる変造カードとは…
逆に、受付機設置前より使い勝手が良いカードが出回った事もある。
これらの変転に付いて行けない手下達は多数出た。
ギンパラ組の手下達は、誰一人ゴト師を辞める事は無かったが、少し怖がりの手下達は、半数以上が辞めて行く結果になった。
辞めるしか無くなった手下達が言う。
「楽なカードに変わったら教えて下さい。戻って来ます」
「分かった。まあ、とりあえず真面目に頑張れよ」
僕はそう言って彼らを引き止める事は一切せずに見送った。
楽に出来る変造カードが出来上がると、僕は彼らに再び声を掛けた。
一人でも手下が増えれば僕の儲けが増えるからである。
声を掛ければ、戻る手下達は多かったが、中には戻る事を拒む手下達もいた。
既に新しい生活を始めていると言う。
僕は戻る事を無理強いしたりはしない。
「そうか。分かった。頑張れよ」
そう言って、彼らと二度と会う事を避ける様にした。
僕から彼らに連絡を取る事は、その後一切していない。
彼らから時間を空けて戻りたいと言って来た時は適当な理由をつけて断った。
時間を空けた事で良心に目覚めた奴や、怖がりが前面に出た奴には用が無かった。
どんな理由があるにせよ一度ゴトから長い期間離れると、腕が縮む奴が多い事を知った。
戻らなかった奴らが正解だったと後に知る。
戻った奴らのその後が、余り幸せでは無かったからである。
楽に出来ると思って手下達を呼び戻すのだが、すぐに、カード会社の対策が入り、また変造カードのシステムや形状が変わる。
きついカードだと怖がりの手下達はまた辞める。
辞めれば当然新しい暮らしを彼らは始める。
真面目に就職する奴らもいる。
その生活が軌道に乗り始めると僕がまた声を掛ける。
新しい生活を捨てて彼らはまた戻る…
抜け出せない螺旋のようであった。
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