元キャバ嬢の女ゴト師リカちゃんは、電波ゴトが東京で厳しくなり始めたこの時期も、地方へ出稼ぎに行く事なく、都内のパチンコ屋で電波ゴトを続けていた。
彼女の電波ゴトで稼ぎ出す金額は、やりやすかった時期と比べても、ほとんど変わっていない。
下っ端の店員と話しを付けて安全にゴトを続けていた。
彼女は何かで不安になると必ず僕に相談に来た。
「毎日出すなら一軒で1日いくらぐらいまで出して平気かな〜」
僕が言う。
「死ぬほど出せ。得意だろ?」
「ばっかじゃないの?リカ死ぬの嫌いだもん!」
好きな奴なんているか…
普通は好きでも一回しか死ねないんだよ…
この屁こき女!
ボッタクリバーでの事件を僕は既に知っていたので、彼女は信用出来ない人間だと決めつけていた。
人の死に関わる事件を起こしながら、平然と悪事を働き続ける彼女が、僕には気味の悪い存在であった。
これまでにも数人の人殺しを見た事はあった。
人を殺した人間に会った時、共通して僕の中に訪れる感情は、決して恐怖や恐れでは無い。
ただ、ただ、気味が悪いのである。
そう言う人間達と話しをしていると、時々、彼らは同じ目をする事がある。
抽象的にしか言えない…
目から光が消えるのである。
その時にしている会話は関係ない。
ただ光が消えるのである。
「どうすれば良いか、ちゃんと教えてよぉ〜」
うざい…
懐くんじゃねー…
「いくら払うんだ。ただじゃ教えない」
「え〜!マジで言ってんのぉ〜?信じらんない!」
だまれ…
お前なんぞの信用なんかいるか!
しかし、どう遠ざけようとしても彼女はしつこかった。
自分を可愛いと思っているので始末に悪い。
僕の露骨に嫌がる態度を見ても照れているなどと手下達に言って廻る。
僕にそんな感情は一切ない。
露出の高い格好で目の前をチョロチョロされたりするとケツを蹴り飛ばしてやりたい感情に襲われていた。
「いまリカの事見てたでしょ?」
とか言う。
ムカッと来る。
全く見ていない。
頭に来るので言い返す。
「見てたよ。お前のパンツ、いつもウンコついてんな。ちゃんと拭けよ。馬鹿だと思われるからな。それと太い足出すな。醜い。一つ聞くけど、お前の口についてる赤い奴なんだ?」
「ん?口紅?」
「あ〜 口紅か… なんかの魔ヨケかと思ったよ」
すると妄爺や手下達の所に嘘泣きで駆け寄り僕にイジメられたなどと、でかい声でほざき始める。
周りはいつもリカちゃんの味方をしていた。
僕はこの女が本当に嫌いになっていた。
僕の好き嫌いなど関係なくリカちゃんは仕事が出来た。
彼女は、自分以外の人間を、全て金ヅルだと思っていたのではないだろうか。
人を利用する事に掛けては天下一品である。
誰を泣かしても、怨まれても構わないようであった。
僕と少し似ている。
僕も相手がパチンコ屋ならば、何をしても構わないと本気で思っていた。
大きくて綺麗で、お客さんが沢山入っているパチンコ屋などを見かけると、インチキばっかりしやがってと、いつも怒りにかられて見ていた。
例えパチンコ屋が、換金をごまかして許しているとは言え、国が見逃している以上、合法である。
一つの企業であろう。
サービスを提供して対価を受け取る事も当然の事である。
彼らは国を騙し切り、市民権を得た、合法な企業だと言える。
捕まらなければ全て合法。
そう言う事である。
捕まらなければ犯罪で無いと言うならば、僕とはいったい何者であろうか?
確かに犯罪が確定するのは、捕まって裁判に掛けられ、判決が有罪になった瞬間である。
豚箱に入れられようが、拘置所に長く閉じ込められようが、判決が有罪と下りるまでは犯罪者では無い。
法律の定義はそうである。
容疑者…
被疑者…
未決囚…
全て、ただの疑わしい人である。
だからと言って、僕は自分を犯罪者じゃ無いなどとは言わない。
そんな恥知らずな事は、間違っても、拷問に掛けられても、口が裂けても言わない。
僕は、誰見紛う事無き犯罪者である。
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