対策 対応策72

弁護士は一瞬つまった。

ん?

弱点?

「私は怪我をよく見てないんだけど打撲だね」

「診断書見せて下さい」

「それは見せて良い物ではないからね」

「示談交渉は先生がしたんでしょ?相手の怪我見てないの?怪我してたの?」

「顔だから、一応は見たよ。目の周りが少し青タンになってはいたね」

そんな事は知っている。

小池は抵抗の際に相手を払いのける為に拳を振った。

それがたまたま相手の目に当たっただけである。

戦い方によっては傷害さえ外せたかもしれない。

「青タン?青タンが出来ただけの奴に、80万払ったんですか?それって交渉ですか?傷害事件にならずに済んだ可能性は無いんですか?」

ヤメ検の表情は、一切変わらず冷えている。

「まあ、相手が居る事だからね。診断書が出てる以上、傷害は外せ無かったね」

嘘をつくな…

お前なら外せた…

検察の上の方にいたお前なら、現役の検事に圧力を掛けて傷害事件では無いと認めさせる事が出来たはずだ…

それがお前が、高い金を依頼者から取れる武器なのだから…

傷害を外せたなら、求刑は3年にはならなかった…

僕はニヤニヤしながら言った。

「へ〜 そう言うもんですか… でも、いくらなんでも青タン一つで傷害を外せないのに、80万は無いですよね。誰に言っても笑われますよ。先生は誰に聞いても優秀だって言われてんだから」

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表情はやはり変わらない。

「私は別に優秀じゃないよ。示談に80万円も取られてる訳だからね」

「被害者に、小池を庇う為の嘆願書かなんか書かせたんですか?」

「パチンコ屋さんの絡みがあるから嫌がったね」

じゃあなぜ80万も払う必要がある…

嘘くさい…

しかし、何を言ってもアッサリかわされる。

おのれ…

負けないぞ!

「まあ、お金はどうでも良いです。求刑3年ってどう言う事ですか?実刑になるとこでしたよね?」

「求刑?判決には何も関係無いよ。執行猶予が取れてる訳だしね」

「そうなんですか?周りの刑務所経験者達の人に聞くと、求刑が3年越えたら刑務所の高い塀の上にフラフラしながら立っているのと一緒で、どっちに落ちるか分からないって聞きますよ。だから弁護士さんは、求刑が3年を越えないように動いて執行猶予を狙うって聞いてます」

「あはは、面白い事を言うね。でも私は求刑など関係なく執行猶予を取ったよ。問題あるのかな?」

「ありません。ぎりぎりでも勝ちは勝ちですから。ただ… 今回の勝ちは先生に運が味方したから勝った様に僕は思います。先生の弁護が運だよりだと僕は不安になります。最後は先生と決めているからです。その不安を打ち消す為に、僕は、高い弁護士費用を毎回払っているのです。僕の言いたい事はそれだけです」

ヤメ検の表情に全く変化が見えない。

返事を聞きたく無かったので僕は席を立った。

何を言っても、この国が認めた頭脳に、かなう訳が無いと感じた。

「お忙しい所をすいませんでした。帰ります」

それだけ言って出口の扉に向かう。

最後に、ひと腐れ、何かを言わなければ、惨め過ぎる負けだと思っていた。

壁に架けられた一枚の絵が目に飛び込んだ。

ピカソとしか思えない落書きの様な絵に、足が釘づけになる。

絵などに全く興味が無い。

この絵が本当にピカソかなども全く分からない。

ただ値段に興味があっただけである。

しかし値段を聞く程ヤボでは無い。

ピカソかどうかの確認だけをしようと絵を指差して振り向いた。

ヤメ検が慌てたように、声高に言った。

「フェイクだよ!贋物!」

初めて見る、ヤメ検の動揺した顔がそこにはあった。

は?

なんだ?

ピンと来た。

弱点めっけ!!

僕はげひた笑いを顔に浮かべて言った。

「うそ〜 この絵は本物でしょ… 僕、絵はカジッてたから詳しいんですよ」

ヤメ検は僕の正体を知らない。

ゴト師を何十人と束ねている事は知っている。

泥棒とゴト師など、偉い弁護士の先生から見たら同じに見えるのであろう。

盗まれる事を危惧している…

ピッキングや空き巣の流行っていた時代である。

それらの事件を弁護士ならば沢山見聞きしているはずである。

情報が売り買いされている事も知っている。

逆転だ…

震えろ!!

動揺を隠し切れないヤメ検に言った。

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