この時ツルッパは、喫茶店の開店資金を既に持っていた。
貯金などしている手下達は数える程しか居なかったように思う。
使った残りがタクワえである。
悪銭身につかず…
間違い無い事である。
稼ぎ終わったお金に興味が無かった僕も、また異例であった。
ツルッパはヤクザを辞めて喫茶店を開店するか、ヤクザを続けながら開店するかに悩んでいた。
ツルッパが僕に言う。
「辞めてからやった方が良いよな?」
「そりゃそうだろ。上手くいったって、たかられるだけだろ。喫茶店なんか儲けが薄いだろうし。辞められんなら辞めちまえ。お前にヤクザなんか無理だよ。へたれなんだから」
「そうだよな… 無理なんだよ… 俺、人に酷い事したくないし… でも、辞めるって言うの怖いんだ…」
「怖くねー。殺されやしないだろ。ガタガタ言ったら指の一本や二本、ちぎってくれてやれ」
「やだよ!痛いよ!」
「痛くねー!」
知らんけど…
「それに、オヤジにはよくして貰って来たし…」
ヤクザとはいったい何であろうか…
ツルッパの様に、完全に奴隷扱いを受けている組員ですら同じ様な事を言う。
決して暴力だけでツルッパを支配しているのでは無い。
しかし僕には、ツルッパ達は、騙されているとしか思えなかった。
「まあ、どうしても辞めて喫茶店がやりたくなったら言ってきな。僕がお前んとこのオヤジと話してやる。その貯金を全部よこすんなら、お前んとこの小さい組なんか捻り潰してやるし」
そう言いながら僕はニヤニヤした。
「いいよ!やめろよ!」
ツルッパは酷く慌てている様であった。
そんな事が出来ない事は充分承知していた。
しかし僕は、組織をどうすれば倒せるかを考える事はやめなかった。
いつも、引き下がれない時に、どうするかを考えていた。
捨て身と、ジュンダクな資金さえあれば、可能性はゼロでは無いと思っていた。
考える事は、僕の一つの趣味である。
僕は決して考える事をやめない。
ツルッパは、新しいゴトが見つかるまでは、貯金を食いつぶして、しのいで行く事に決めたようであった。
片やリュウには、やろうと思えば裏ロムやハーネスの打ち子があった。
しかし全てを雪ちゃんに止められていた。
雪ちゃんは、僕の所の悪さしかやっては駄目だと言う。
日本人が一緒だと安全だと思い込んでいるようであった。
僕がリュウを捕まらせないように動いていた事が勘違いの理由であろう。
しかしリュウは、稼ぎが全て無くなった訳ではない。
ギンパラの電波道具を、僕の手下達に貸している道具代が入って来ている。
この時期既に、電波ゴトに対して対策をする店が東京では増え始めていた。
パチンコ屋のホール内で電波を飛ばすとセンサーに反応するのである。
センサーの種類は多種多様であったが、どれもそれほど精密な物では、まだなかった。
対策部品の性能が、ゴトに追い付いていないのである。
1番多かったのが敏感すぎるセンサーであった。
これらのセンサーは絶対に失敗作である。
携帯電話の電波にすら反応してしまう物が多い。
このセンサーを取り付けた店は、店内での携帯電話使用を禁止するようになって行く。
電源さえ入れておく事が禁止である。
着信しただけで反応する。
携帯の使用を禁止した、敏感センサー付きの店が増え始めると、東京のパチンコ屋中に、不思議な現象が起こり始めた。
なにを勘違いしたのか、ほとんどのパチンコ屋で携帯電話の使用が禁止され始めたのである。
センサーなど付いていない店でも使用禁止である。
へたに携帯などポケットから出そう物なら身体検査をする店すらあった。
店側とお客さんとの小競り合いを毎日見かける様になっていた。
携帯が爆発的に普及し始めていた時期である。
「何の対策ですかね?」
「知らね。頭に虫でもわいてんだろ。馬鹿ばっかりだよ」
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