たとえ無実だとは言え、タカリ屋は、警察に身元を掴まれる事を嫌うであろう。
ニ度目が出来なくなるからである。
詐欺は繰り返す事が捕まる可能性を上げる犯罪である。
最悪、間抜けなタカリ屋に当たって、民事裁判まで行ったとしても恐れる事は無い。
強力な弁護士がタカリ屋側に付いていなければ、判決はどちらに転ぶか分からない。
裁判で店側が勝つ可能性は高い。
強力な弁護士が、チンケなタカリ屋に付いている場合など、まず無いが、ついていた場合でも恐れる事は無い。
その場合、裁判では店側が負ける。
しかし、慰謝料としてタカリ屋に支払う額は、微々たる物である。
多分、何度もユすられて支払う金額よりも安く済む。
詐欺師は、無駄な裁判などしないのである。
それなのにパチンコ屋はなぜかタカリ屋にその場でお金を払う所が多い。
裁判まで行くと、面倒だからであろうか?
それだけか?
答えは、風に吹かれている…
現在では、この手の詐欺に対して、余りにも数多くやられた事により、パチンコ屋側は、強い対応に出ている。
裁判での判例も、パチンコ屋側に味方する向きが強くなっている。
やればあっさり捕まる。
新しい打ち子を中華ソバの所に送り込んだ事により、良夫ちゃんは干上がった。
この世の終わりの様な顔をして良夫ちゃんが聞いて来る。
「なんでクビなんですか?」
「ん?なんでって…」
面倒臭いので適当にあしらう…
「女しか打ち子やらせない事にしたらしいよ」
「え〜 そうなんですか…」
自殺でもしてしまいそうな顔である。
いたずらゴコロが騒ぎ出す…
「変装して女になって行けば使うらしいよ… 女装して行く?変装得意じゃん」
「女装ですか〜」
ん!?
考えてる?!
びっくりした。
乗せりゃやるじゃん!
ハメてやる…
罰はまだ与えていない…
「みんな女装して行くらしいよ」
「え〜 そうなんですか?」
「そりゃ行くだろ〜 今、みんな稼げないもん」
良夫ちゃんは天井を目だけで見上げて、いつもの考える格好になった。
僕の頭が高速で回転を始める。
やるぞ!
こいつ!!
「お母さんにカツラ借りて、ハツコさんに洋服借りれば良いじゃん… あとブラジャーして中にタオルでも入れてけば完璧だよ」
完璧…
変態のな!
横で聞いていた数人の手下の中から、一人が真顔で口を挟んだ。
「自分も明日から女装で行くんすよ」
周りの手下達がゲラゲラと笑い出した。
僕は手下達を殺す勢いで睨んだ。
僕の楽しみを勝手にこの場でギャグにするんじゃねぇ!
ぶっ飛ばすぞ!
手下達は僕を見てピタリと笑いをおさめた。
良夫ちゃんは笑いの意味が分かっていなかった。
合いの手を入れた手下に興味津々である。
「行くんですか?」
手下が僕を不安げに見た。
僕は小さく頷いた。
手下が言う。
「行きますよ…」
今度は誰も笑わない。
本当に良夫ちゃんが引っ掛かるのかの興味に包まれている。
ケ〇タッキーのカーネルサンダ〇スを小さくしてだいぶ貧相な感じにした見た目の良夫ちゃんに向かい僕は言った。
「だからみんな行くんだっての。良夫ちゃんだって女顔だから行けるよ」
「そうですか?」
「うん… 行く?」
ニヤリと笑って良夫ちゃんが言った。
「行きます!」
マジでか!!
カーネル貧相ヅラなのに!
良夫ちゃんは嬉々としてハツコに電話を掛けた。
洋服を借りる約束をしている。
僕が横から小さい声で口を出す。
「ワンピース、ワンピース!それかドレス!」
良夫ちゃんがハツコに言う。
「ワンピースある?」
「ブラも借りな!」
「ブラある?」
そりゃあんだろ!
アホか!
パンツ…
バレっか…?
ぎりぎりで合いの手を我慢した。
ハツコはブラは貸さないが、ワンピースは貸すと言う。
誰が着るのかを聞かれていた様なので、言うなとそっと教えてあげた。
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