携帯で通話中にダイヤルボタンを押すと、相手方に耳障りな大きな音が届く。
トーン音である。
この音はパチンコ屋の中の騒音などは物ともしないで耳に響く。
ハツコが時間を計り、その時が来たらダイヤルボタンを連打する。
婆さんは、そのトーン音を聞いたら打ち出す。
そこに会話は要らないのである。
このアイデアを無理矢理ヒネり出して、ハツコを雇う事を婆さんに納得させた。
婆さんが言う。
「5千円渡すんじゃ駄目ですか?」
知、ら、ん !
好きにしろ!
二人の話し合いの結果、車のガソリン代込みで、7千円で話しが付いたようである…
この日、婆さんには、ハツコとの電話の連携だけを、しつこく練習させた。
パチンコ台を使って練習したのは、主に良夫ちゃんである。
僕は良夫ちゃんの方が重症だと思っている。
目をつむらないと、何度やっても体内時計が狂うのである。
今度の打ち子は、サンゾクで100回近くを出した、バレても構わない打ち子では無い。
出来る限り自然に振る舞わなければいけない。
目をつむってしか時間が計れないと言う事は、台を立ってのカモフラージュが出来ないと言う事である。
それは、打ち子として、有り得ない事であった。
遅くまで練習させて、どうにか目を開けて時間内に打ち出せるようになったが、次の日の朝には良夫ちゃんの体内時計は、また狂っていた。
仕方なく諦めた。
まだ疑われていない店ならば、見た目で乗り切るだろうと期待した。
しかし良夫ちゃんは裏ロムやハーネスでは何度も使えないと感じた。
婆さんとハツコの連携は何の問題もなく出来ている。
婆さんを危ない店に行かせる事に決定した。
次の日の朝、中華ソバとの待ち合わせ時間の前にパチンコ屋に三人を連れて練習に行った。
三人が三様に出来る様にはなっている。
とりあえず間に合った事に安堵した。
三人に言った。
「この先、変造カードが出来なくなったら、中華ソバが回して来る裏ロムの打ち子は重要になって来る。下手な事をして話しを潰さない様にしてくれ。無理だけはやめてくれ。分かった?」
三人は分かりましたと言った…
この時の僕には、信じる事しか出来なかった。
不安ばかりが押し寄せていた。
この日僕は婆さんにも良夫ちゃんにも付いて行かなかった。
変造カードのデーター取りなどに忙しかった。
捕まるようなゴトではない。
僕の儲けになる訳でもない。
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