僕を間に挟み二人をパチンコ台に座らせた。
僕は婆さんだけに言った。
「覚えてるセットをやってみて。間違えたら駄目だよ。1度でも間違えたり時間が狂ったらやらせない。分かった?」
「1度もですか?」
「そう。1度も…」
二人に時間差でセットを始めさせた。
僕はパチンコも打たずに婆さんのセットを中心に見ていた。
特定の数字が止まって婆さんがハンドルから手を離す。
合っている。
秒読みが開始される。
僕はチラリと時計の秒針を見た。
最初は40秒。
時間が過ぎる…
1分に為ろうかと言う時、婆さんがハンドルを握った。
ほぼ失敗である。
僕は黙って見続けた。
少し経って、婆さんがハンドルから手を放す。
次は1分。
ここまでの暗記した手順に狂いは無い。
時間が過ぎる。
良夫ちゃんを見ると、やはり目をつむって時間を計っている。
良夫ちゃんは、危ない店ではやらせる事が出来ない事を知った。
1分25秒程を過ぎた所で婆さんがハンドルを握った。
完全な失敗であった。
その後普通に打ち始める。
裏ロムやハーネスが付いている台ならば、コレで当たりが来る。
しかし、婆さんのセットでは、いくら待っても当たりは来ない。
良夫ちゃんは、目をつむりながらも、当たりを引けるセットであった。
当たりを引けたであろうタイミングで婆さんがハンドルから手を離し、不安そうな顔で聞いて来た。
「どうでしたか?」
「失敗。時間が両方とも遅すぎる。両方とも20秒遅い」
良夫ちゃんが聞いて来る。
「私は?」
「出来てた…」
良夫ちゃんは安堵の表情を見せたが、婆さんはガックリしている。
努力が無駄に為ったと思っている。
いや…
まだだ…
無駄じゃ無い。
婆さんは使える。
やはり婆さんは、普通の老人である事を知った。
しかし僕の中では、ボケババアから普通のババアに格上げした。
充分である。
危ない店は婆さんに任せようと決めた。
二人に言った。
「良夫ちゃんは、目をつむらずに、もう一回ね。お母さんはラストチャンス。次、失敗したらホントにやらせないよ」
婆さんにプレッシャーを掛け続ける。
本番では、店員がプレッシャーを掛けて来るのである。
婆さんは嬉しそうに頷いた。
閉店まで練習して、良夫ちゃんは、目を開けていると時間が狂う事を確認した。
婆さんは、時間が早く為ったり、遅くなったりを繰り返し、5回やったセットを全て失敗した。
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