は?
何言ってんだ?
意味がよく分からなかった。
「良夫ちゃんに教わったの?」
「はい。リュウさんにも前に良夫ちゃんが100回出してる時、教わりました」
あ、あの時か…
リュウが、理解しない婆さんに、車の中で、しつこくゴニョゴニョ言っていた。
しかし教えたのが良夫ちゃんやリュウでは更に不安になる。
良夫ちゃんはアホだし、あの頃のリュウは、まだカタコトである。
どんな事を覚えたのか婆さんに聞いた。
驚く事に婆さんは、ハーネスゴトの仕組みや、サンゾクで良夫ちゃんがやったセットまでを全て暗記していた。
え?
ええっ!?
ババア…
普段はホントにボケた振りなのか…?
僕は婆さんを呆然と見つめた。
全てを正確に話した婆さんが僕に言った。
「間違ってますか?」
「いや… だいたい合ってる…」
「だいたいですか?」
だいたいでは無い。
合っている。
良夫ちゃんやリュウが、教え無かったであろう部分が抜けているだけである。
「いや、完全に合ってる。裏ロムはセットが少し違うだけだよ。セットはやる台によって違うから一々覚えるしかないんだ…」
婆さんは、満面に笑いを浮かべて言った。
「そうですか。なら覚えます」
シワシワの婆さんが、人間ではない何物かに見えた。
理屈やセットは、何度も反復すれば誰でも覚えられる。
婆さんは時間を掛けて必死に記憶したのであろう。
それは、80才を越えている事を思えば凄い事である。
しかしセットには技術面がある。
時計を見ずに時間を計る…
それが出来なければ暗記したセット方法は店では使えない。
「時計見ないで時間計る練習はした?」
「しました。出来ます」
マジでか…
ババアのくせに…
良夫ちゃんの親のくせに…
はっと気づいた。
「目、つむんの?」
「つむりません」
体内時計テストが始まる。
「40秒経ったと思ったら手を挙げて。はい、スタート!」
35秒経過…
40秒経過…
41…
42…
43…
44…
手が挙がった。
出来んじゃん!!
プラスマイナス10秒程なら何の問題も無い。
続いて1分のテストをした。
10秒程遅れたが、こちらは、プラスマイナス20秒程のズレが許される。
完璧であった。
急いで婆さんと良夫ちゃんを閉店30分程前のパチンコ屋に連れて行った。
僕はあくまでも二人を信用しなかった。
いや…
出来なかった。
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