僕の方を見ていた店員の横に差し掛かる前に、4枚のカードを胸ポケットにしまい、代わりに取り出した煙草に火を付けた。
店員は僕のことを見ている様に感じた。
その店員が担当する列の、店員から1番近い、空いていた角の台に座った。
サンドのランプも店員から丸見えである。
いくら何でも、この位置でエラーが出れば、店員は気付くと思われた。
台に座ると同時に、店員など構わずカードをサンドに投入した。
金額表示窓口に【30】と言う数字を確認して貸し玉ボタンを押す。
玉が出た。
よし…
問題なし…
僕はボンヤリとパチンコを打ち始めた。
店員は何も言って来ない。
全てとは言わないが、逃げる姿勢や怯む態度を見せなければ、店員は疑いを、お客さんにイキナリぶつける事はしないのが普通であった。
しかし、態度に少しでも怯みや恐怖を出したら別である。
自分の判断で捕まえる事はしなくても、他の店員に相談したりする事が多い。
相談された段階でアウトである。
疑えば必ず店員達は張り付く。
ゴトの確認をしようとする。
相談する動きを見せたら逃げれば良いのである。
当然その際に走ったりしてはいけない。
どんなに内心恐怖に震えていても、外見には一切出さない練習を毎日して来ている。
休む事なく、これまで続けて来たゴトが、僕を確実にゴト師として成長させていた。
店員はじきに僕から目を切った。
それを感覚で感じる。
カードの残り金額がなくなる前に、その店員の癖などを読み取る。
およその知能レベルや、役職なども同時に想像する。
歩くスピードを計り、どのタイミングで通路内に出入りするのかを知って、カードの終わりに出るエラーのタイミングを自分で決めなければいけない。
店員が近くにいない時にエラーが出る様にする事は、それほど難しい事では無い。
最後の500円の貸し玉ボタンを押すのは僕なのである。
続けて1000円分の玉を出しても問題は何もない。
店員が離れるタイミングで最後のボタンを押してエラーを出す。
そしてサンドの鍵でエラーカードを抜く。
全てが、簡単な事だと思った。
受付機を通ってしまったカードなど、これまでのカードとたいした違いがないのである。
エラーが出た時、店員が横に居る事など日常茶飯事であった。
そして普段からやっている、拾って来た本物の使い済みカードを、1枚ジーパンの内股に取り付けた隠しポケットから取り出し、灰皿の横に置く。
使い終わった変造カードを、そのポケットに仕舞う。
全てが、何度も繰り返して来た事である。
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