だからと言ってタナカ達をタケコブタに連れて行って受付機を調べさせる訳には行かない。
何をされるか知れた物では無い。
話しの付いた店を知られて情報を流されたら、ゴト師が大挙して押しかけてしまう。
そう言う事をするカード屋は結構あった。
僕はカード屋など全く信用していない。
この日、カード屋の工場の場所を知る為に、二人の手下を待機させていた。
タナカの尾行をさせる為である。
何かあった時の為に弱みを掴む…
何も無ければ何かする積もりは全く無い。
間に雪ちゃんが居るとは言え、彼らに身柄をかわされたら捕まえる方法が無いからである。
それでも、尾行を付けた1番の理由は、タナカが胡散臭く見えたからであった。
犯罪者を信じて騙される事程、馬鹿な事は無いと思っていた。
何かあれば、仕返しで情報を売る事さえ考えていた。
ゴト以外の悪さはしないと決めていたが、境界線はボヤケていた。
情報を売って、お金が欲しかった訳では決して無い。
この日、タナカが工場と僕の間を、数回往復する事は前日に知れていた。
前日の料理屋の帰り道に源次に言った。
「アイツらに尾行を付けよう… 信用ならん」
源次は僕を悲しげな顔でチラリと見て、ひと言だけ言った。
「そうですか…」
軽蔑されたと理解した。
しかし僕は、自分の考えを変えなかった。
尾行に無理はさせない。
タナカ達も警戒している。
データー取り用のカードの受け渡し場所からタナカの工場は、2、3キロ圏内だと思っていた。
東京の都心部は、約2キロに一つ駅がある。
最寄り駅は池袋と言われていた。
大きなターミナル駅である。
タナカ達は車で移動している。
手下達はバイクである。
タナカ達の車を前後で挟む様に尾行させる。
車間は100メートル程空けさせた。
都内で車間100メートルと言えば結構な数の車が間に入る。
見失う可能性が高い。
一度の尾行で、工場まで掴む必要は無いと、手下達に強く言って、見失った所から次の往復の際に、また尾行させる。
それを3回程繰り返せば工場の場所は知れると考えていた。
タナカ達と別れ、手下に電話を掛けて最後の確認をした。
「今タナカ達が車に戻る。絶対にイレ込むなよ。冷静にいけ。尾行は失敗でも良いからバレる事だけ気をつけろ」
尾行が始まった。
この日、カードのデーター取りは3度あった。
一度目の尾行は開始から10分程でタナカ達の車を見失い終わった。
細かい道を、チョコチョコ曲がるタナカ達の車を、無理に追い掛けなかった結果である。
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