しかし源次も、すっかりゴト師であった。
技術力や根性のあるゴト師には変造カードゴトなど遊び以外の何物でもない。
この時期、結構厳しくなり始めていた変造カードゴトだが、それでも月に手にする金額は100万円を軽く突破する。
辞める選択は難しいのであった。
犯罪とは言え、生活を立て直す近道である。
源次も言った。
「カードが終わるまでは続けたいです」
僕は少し安心した。
それからは源次と二人でカードゴトをやって歩く事が多く為って行った。
僕とならば、口も段々ときくように為った。
もう一人、源次が喋る人間が居る。
なぜか良夫ちゃんである。
決して二人は仲が良い訳では無い。
犬と猿…
犬猿の仲であった。
源次は真面目で頭が良い。
少しカタブツではあるが常識も人並みにある。
そこへいくと良夫ちゃんは、全てに適当で頭が悪い…
常識など皆無である。
良夫ちゃんの非常識な行動に、僕は諦めて殆ど口を出さないが、源次は我慢が出来ない様であった。
良夫ちゃんの非常識などあげれば切りがない。
変造カードでエラーが出た時、サンドの上のランプが赤く無音で点滅する。
エラーカードを抜けば点滅は消える。
鍵さえ持っていて慌てずにカードを抜けば良いだけの事である。
しかし、良夫ちゃんは、サンドの鍵を忘れたり、ポケットのどこに入れたかなどを平気で忘れてしまう。
エラーが出ると慌ててジタバタと全てのポケットをあさり始めるのである。
そこへ店員が近づく…
普通ならば、逃げるか、素知らぬ顔で店員をやり過ごす。
普通では無い良夫ちゃんは、あろう事か点滅するランプを手で隠すと言う暴挙に出る。
ランプの点滅に気付いていなかった店員ですら気づく。
それを源次は近くで見ていた。
顔から血の気が引いたと言う。
僕も全く同じ情景を見た事があるが笑った。
僕が見た時の店員は、僕が横で笑っていた事により良夫ちゃんの行動を冗談だと理解した様であった。
釣られて笑いながら良夫ちゃんから離れて行った。
その後に僕が鍵を使いカードを抜いた。
しかし源次が見ていた時の店員は違った。
良夫ちゃんに血相を変えて詰め寄ったと言う。
店員は手をどけろと言う。
良夫ちゃんは、どかさないと言う。
周りのお客さん達は何事かとザワメキ始める。
この店員は少し抜けていたのが幸いした。
頑なな良夫ちゃんを放置して他の店員を呼びに行くと言う失態を犯した。
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