料理屋に着いて名前を告げると奥の個室に案内された。
二人の〇国人が既に待っていた。
雪ちゃんは、僕と工場の人間を繋いだだけで、同席はせずに、源次と二人で行く許可を取ってくれた。
個室に入ると、一人の〇国人が愛想良く席を立ち上がり、右手を前に出しながら、流暢な日本語で自己紹介をした。
「はじめまして、田中です。よろしくお願いします」
は?
タナカ?
差し出した手は握手を求めているのだろう。
うぜー!
真っすぐにタナカの目を見ながら差し出された手を力を入れて握った。
「よろぴく… てか握手する習慣がない。キモい」
タナカが苦笑いで手を放す。
僕と源次は名前だけの自己紹介をした。
タナカの見た目は、少し驚く程の二枚目である。
歳が僕の三つ上だと聞いた。
格好は見るからに高そうなスーツの三つ揃いである。
三つ揃いなど着ている20代の男を初めて見た。
普通は着ないだろ…
僕の世界が狭かったからだろうか?
近づくと香水なのだろうか、オシロイの様な匂いがする。
気に入らん…
芋屋あがりの僕から見ると、どこかいけ好かない男であった。
自分が雑草の様に感じた。
そもそも僕は、カード屋全体が気に入らなかった。
この時の僕には、何もせずにアガリを巻き上げる、汚い奴らだと言う認識しか無い。
変造カードを作る機械を持っているだけ…
安全に巨額を手にする、クソども…
そう思っていた。
事実、その通りではあるが、彼らには彼らの戦いがあった。
しかし、僕には、そこまで思いがいたらない。
タナカの、何不自由なさ気な紳士ぜんとした態度や格好が、妙に鼻についた。
ネタみである。
雪ちゃんの紹介とは言え、下手に出る事はやめた。
もう一人の、〇国人の紹介もされたが、ボディーガードだと理解した。
タナカが田中である事は聞かなくても分かる。
偽装結婚で日本人になったのであろう。
アブク銭を稼ぐ道がある不法の外国人達は、偽装結婚の道を選ぶ奴が多い。
当然、結婚が偽装で行われる以上、お金が発生する。
この国で稼ぐあての無い貧乏人には出来ない。
逆を言えば、稼ぐあてがあるからこそ、偽装結婚をしてまで、この国に留まる。
当時の偽装結婚の相場が、200万円前後であった。
タナカ役の人間が、200万円払い、相手の女性が50万円程を受け取る。
男女逆も、同じ様な物であった。
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