金庫から、錠剤の入った三つのビニール袋を取り出して、いくら分かを考えながらトイレに向かった。
トイレの横に付いている風呂枠に座って便器のフタを開ける。
目分量で50錠を手の平に取り出して便器に落とした。
流す。
同じ事を、錠剤が最後の1錠になるまで繰り返した。
全部で八回、約400錠。
僕が聞いた仕入れ値段ならば、たいした金額ではない。
しかし、高値で売り抜けた場合は結構な金額に跳ね上がる。
僕は手の平に残した青い1錠の薬をジッと見つめた。
飲めば頭がパーになる。
いや…
この薬を飲もうと決める奴は、初めから頭がパーなのであろう。
化け物どもの話しを書く事はやめる…
胸糞が悪い。
効き目の弱い薬ではあったが、最後は必ず中毒患者になる。
これらの薬を売る人間は必ずと言って良い程、最後には自分も使用するようになる。
薬には近づいただけで人を引き込む魔力がある。
人間でありたいならば、手を出しそうに為った時あらん限りの想像力を振り絞って考えた方が良い。
自分…
身内…
友達…
未来に出会う愛する人…
子や孫…
これら全てをすてる覚悟すら必要である。
ゴトは、ある程度の期間を捕まって償えば、改心したり、二度とやらなくなる事により、償いは、ハッキリ言って終わる。
しかし、薬の償いの期間は、永遠である。
それは、ながく、ながく死よりも苦しい永遠である。
薬の魔力から逃れる方法は、近づかない事と、離れる以外は無い。
最後の1錠をトイレに流して弁護士に電話を掛けた。
「すいません、さっき頼んだ小池の担当、取り消して貰いたいんですけど…」
気味の悪い目付きの、僕の苦手なヤメ検弁護士である。
いつもの様に、ぶっきらぼうに彼は答えた。
「あ〜 良いよ。まだ何もして無いから」
相変わらず偉そうである。
お前に、いくら使ってると思ってんだ!!
とか言ってみたい…
でも言えない…
「それで、面会に行って伝言だけして貰えませんかね?あはは…」
卑屈…
「あ〜 暇な時で良いなら良いよ。一回4万円ね。交通費別」
暇!
4万!
お前〜!!
木刀で、頭を後ろから、ひっぱたきたい衝動を押さえて伝言を頼んだ。
「薬は便所に流した。この先、どうすれば良いか弁護士の先生と相談しな。この先、僕がお前に何かしてやる事は無い。彼女には、お前が捕まっている事は言ってない。以上です。返事はいりません。小池がもし先生を選任したいと言ったら受けてやってくれると助かります。よろしくお願いします」
ヤメ検弁護士は、僕が言った伝言を、一言一句違えずに繰り返して、良いかね、と言って電話を切った。
ヤメ検は、小池に自分を売り込むだろうと思っていた。
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