知り合いのヤメ検弁護士に連絡して、小池の事件の担当と面会を頼んだ。
弁護士は、出張中との事で、二日後に面会に行ってくれる事になった。
それから1時間後には、僕は、小池のマンション前に居た。
マンションの周りを歩いて30分程廻る。
張り込みの警察は居ないように見える。
元々チンケな事件である。
それ程、警戒する必要など無い。
家宅捜索、いわゆるガサ入れの可能性がゼロでは無い以上、小池の家に行くのは早い方が良いと考えていた。
干からびた猫を見る事に為るのもキモい。
小心者の小池は、警察に何を喋っているか知れた物ではない。
しかし、小池が何を喋ろうが、小池の証言だけで僕を逮捕出来る物的証拠はどこにも無い。
警察の取り調べなど軽く切り抜ける自信が、この時の僕にはあった。
強力な弁護士も付いている。
しかしガサ入れに来た警察とのバッティングは避けたい。
ウザいからである。
弁護士に教えられた四つの数字でエントランスのオートロックを解除する。
随分、家賃の高そうなマンションであった。
玄関の鍵は開いていると言う。
鍵は閉めて出かけろ…
泥棒に入られる…
そう思った。
小池の部屋の前に立ち、ドアノブを軽く引いた。
あ?
開かない…
ガチャガチャ強くやった。
開かない…
嫌な予感に包まれた。
部屋の中に人の気配がした。
しまった!
ガサ中か!?
一瞬で、今さら走っても遅い事を自覚した。
とりあえず玄関からユックリ離れて、見つかれば友達の振りをする事に決めた。
すると部屋の中から、マノビした女の声が聞こえた。
「はぁ〜〜い、誰ですか〜」
は?
部屋、間違えた?
部屋番号を確認する。
合っている。
彼女かなんかか?
仕方なく言った。
「小池君の友達ですけど…」
すぐに、ガチャリとドアが開く。
中から、これから出勤しますと言わんばかりの20代後半に見えるキャバ嬢が現れた。
僕を値踏みするように、ジロジロと露骨に見て来る。
ゲヒタ笑いを口元に浮かべて女が言う。
「池くん居ないけど」
池くん?
あ〜 小、池…
「はぁ… 知ってます。猫を預かりに来たんだけど…」
「猫?猫なんか居ないけど」
へ?
意味がサッパリ分からなくなった。
女に聞いた。
「小池君と一緒に暮らしてるの?今、小池君どこに居るか知ってます?」
「一緒に暮らしてるよ。池君、昨日から帰って来てない。電話も繋がらないし…」
逮捕を知らない…
小池は、僕に何をさせたかったんだ…
必ず何かあるはずであった。
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