頭の中では、見捨てる事に傾いていた。
今の時期ならば、すぐ釈放になる可能性が高いと思っていた。
弁護士が言う。
「小池さん、パチンコ屋さんでの逮捕の際に、暴れて店員に怪我をさせてるんですよね」
ギクッとした。
あの、馬鹿!
それじゃ出て来られない可能性がある…
判断に迷う。
助けるか…
見捨てるか…
小池の臆病な眼差しが脳裏をかすめる。
くそったれ!
針が、なぜか助ける方向へ振れた。
大損だ!
弁護士に細かい状況を聞いた。
しかし要領を得ない。
やる気の無い弁護士の様に感じた。
当番弁護士ならば、やる気など出ないであろう。
細かい事は知らない…
この時より数年前に出来たばかりの、弁護士派遣制度によって、日弁連から派遣された弱者救済の為の弁護士であった。
当番弁護士は、無料である。
人は警察に逮捕された時、お金が有れば私選の弁護士を雇う事が出来る。
私選の弁護士ならば、逮捕されてから早い段階で面会してくれ、相談にのってくれる。
その他にも、いろいろな便宜をはかってくれる。
お金の無い人や、その他の理由がある人は、国選の弁護士を国の払いで頼む事になる。
国選の弁護士は、基本的に裁判の為に動くので、面会が遅いのである。
裁判直前などと言う時すらある。
被疑者に味方の居ない状況で警察の取り調べが行われる環境は、冤罪を生みやすい。
冤罪とは、罪無き人が、無実の罪で裁かれ、投獄される事を指す。
そこで出来たのが、被疑者が逮捕直後に、一度だけ無料で弁護士を呼べる当番弁護士制度である。
日弁連の狙いは、大きく言って、弱者救済と、冤罪を防ぐ為である。
しかし小池は、冤罪でも無く、警察にイジメられている訳でも無いのに、これを使った。
制度がある以上、使う事は、別に悪い事では無いが、当番弁護士の中には面白くないと言う態度を素直に出す人も一部居た。
この時の弁護士は、はっきり言ってダルそうであった。
ハズレである。
弁護士には、当たりハズレが色濃くある。
こりゃ駄目だ…
怒っとるがな…
最後に弁護士に聞いた。
「僕への伝言はありますか?」
「家に猫が居るそうです。面倒をお願いしたいと言っていました…」
なんでやねん!
知らんがな!
弁護士以上に、僕がイラ付いたのは言うまでも無い…
お礼を言って電話を切った。
すぐに、小池とのカードの取引を担当していた手下に電話を掛けて、彼の逮捕を伝えた。
コイツも小池の逮捕を知らなかった。
「あいつ、カードやってたの?」
知らないと言う。
小池との取引に使っていた携帯を破棄して、変造カードの取引場所に近づかないように指示をした。
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