大型店の閉店時間を伝えるマイク放送が店内に流れたのは、閉店1時間前の午後8時である。
それまでの間にも、店員に閉店時間を何度か確認したが、正確な閉店時間は教えて貰え無かった。
建前が、予定金額を吐き出したら閉店と言う事になっているからであろう。
しかし、初めから午後9時に閉店する事は決まっているのである。
くだらないパチンコ屋の昔からの建前であった。
しかし、レシートゴトが途中でバレていれば別である。
その建前を利用して早めに閉店する事が予想された。
逆を言えば、閉店が予想の9時であるならば、ここまでは、レシートゴトはバレていない事になる。
僕はそう考えていた。
9時過ぎの閉店時間を店内放送で告げられたなら、ソコから閉店まではレシートゴトに取って間違いなく一瞬のチャンスである。
どんな両替でも、必ず通る筈である。
あと1時間…
一気に行く…
予想が外れて疑われたら引き揚げれば良いだけである。
ゴト師を引き取りに来た警官は、まだ大型店から出て来ていなかったが、それほど心配はしていない。
警察など僕に取っては、当面の敵では無かった。
この段階で、少ない警官に、正体の知れないゴト師を捕まえる事は出来ない。
ドジなゴト師と遊んでな…
そう思っていた。
大型店の周りに待機している手下達のリーダー格を数人集めて、残っているレシートを全て配った。
その中に、5上の男が居た。
「お前らに用無いぞ。なんか僕に言いたい事があるなら忙しいから後で来い…」
それだけ言って放っておいた。
他への指示をする。
「あと1時間で、必ず全部両替を終わらせる様にレシートを配分して、ドンドン両替に行かせろ。景品も全部、金に変えて良い。もう危険は無い。あるとすれば、景品を金に変える時だけど、無視して、構わず換金すれば平気だ。早く終わった順番に、中型店の両替も行かせる。稼ぎたければ急げ。分かったか?」
皆が分かったと言った。
質問も無い。
この時まで、両替は全て順調に来ている事で、誰1人怖がってはいない様であった。
勢いで全て終わらせられると僕は考えていた。
今更、店側が疑っても遅いのである。
一般のお客さんが、この先、大挙して両替や換金をする。
行列である。
押し寄せる、お客さんの中から、ゴト師を見つけ出す事は難しい。
一人、一人に疑いを掛けて調べる訳にはいかないであろう。
見た目でゴト師を特定出来る可能性がある、レシートに打ち込まれた時間に、不自然な所はない。
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