それをコイツは怠った。
僕への電話の前に、店に居る奴を逃がすのが正解である。
今現在ホール内がどうなっているのか分からなかった。
まだ誰からも連絡は無い。
婆さん…
良夫ちゃん…
無事か?
バレた男を目で脅しながら良夫ちゃんに電話を掛けた。
呼び出し音が鳴る…
出ない。
婆さんに掛けるが同じく出ない。
だからと言って二人が捕まったと直ぐに判断は出来ない。
二人はいくら言っても電話に出ない事が度々ある。
なぜ出なかったのかを後で聞くと言い訳はいつも似たような物であった。
「ブルブルが、貧乏揺すりとシンクロしてて気付きませんでした」
「最近手足が振るえるの。ブルブルに似てるのよ」
頼む…
もう少しで良いから、人並みな言い訳をしてくれ…
それで納得したら、余りにも僕はアホだろう…
痛み止めにバ〇ァリンを普通の倍の4錠飲んだ。
朝から何錠飲んでいるのか既に分からない。
飲んでも痛みは、10分程少し楽になる程度であった。
バ〇ァリンは筋肉痛には効かないような気がする…
僕個人の感想である。
中華ソバに電話を掛ける。
何度目かの呼び出し音の後、中華ソバが電話に出た。
「悪い… 急いで店出てくれ。手下がドジった。店の雰囲気おかしくないか?」
「え!? 雰囲気は別ニ…でもすぐ出るヨ!」
「店の前に車停めておくから…」
電話を切って、運転席の、ちょっとやそっとで負けない男に指示をした。
「車、店の前に付けて。僕、店入るから、その間もレシート両替は続けさせて。一人に10万前後持たせてピストンで良いから。車は中華ソバ達乗せたら、さっきの所に戻っておいて。頼むな」
「分かった… 分からない事があったら電話する。体平気か?」
「うん… 平気だ」
平気じゃない…
歩く事が不安であった。
大型店の前に車を付けた。
後部座席では、バレた男が小さくなって座っている。
助手席の扉を開けて僕は車からユックリ降りた。
脇腹が軽くツっている。
バレた男が小さい声で言った。
「すいませんでした…」
遅い…
「許さない… お前はもうここに居ても無駄だぞ」
それだけ言って、車から離れ、大型店の入口へと歩く。
少し体から痛みが引いたような気がした。
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