歯を食いしばって立ち上がった。
僕立てた!
そうなるはずが何かがおかしい…
右足に力が全く入らない。
痺れて自分の足では無いような感じである。
やばい!
足にキテんじゃん!
初体験であった。
右足を地面につくとカクンとなる。
一瞬何故か、頭の片隅で感動していた。
これか…
足にクルって…
同時に武勇伝ヤクザに対して怒りを覚えた。
ハッタリ糞ヤクザ!
全然倒れねーじゃねーか!!
鼻に当たったはずだぞ!!
てか僕ヤバイ!!
絶望に包まれながら、戻り始めた視界の中に、黒髪を探した。
居た!
黒髪は、後頭部を押さえて、横倒しにうずくまっていた。
顔面は血だらけである。
なんで血?
鼻か?
思う間もなく背中に強い衝撃を受けて僕は前につんのめるようにぶざまに転がった。
茶髪の跳び蹴りだった。
何かを吠えている。
後ろからの蹴りに僕の怒りは頂点に達した。
卑怯者め!!
許さん!!
殺す!!
自分の卑怯は当たり前だが、人の卑怯は許せない。
男として最低な奴だと僕は思った。
その怒りのまま立ち上がる。
しかし足のカクンが抜けていなかった。
茶髪はすぐ近くに立っている。
動け!
クソ足!!
踏ん張らなきゃ負ける!!
負けたくねーー!!
剣道…
これ程、道端の素手の喧嘩で、役に起たない格闘技は無いと、いつも思っていた。
棒きれを持たなければ、攻撃も、守る事すら出来ない武道。
無駄な物を積み上げた…
なぜ子供の頃に出会った格闘技が、空手や柔道やボクシングでは無かったのか…
パンチの出し方一つ分からない。
足への攻撃など避けるすべすら知らない。
そんな戦えない武道に何年を費やしたのか…
全くの無駄…
守りたい物があっても守れない。
いつも喧嘩をする度にそう思っていた。
しかし僕は、この喧嘩の後に気付く。
虚弱な体で、33戦3敗の理由に。
迫る茶髪。
腹から声が出た。
「こい!! オラァッ!!!」
気合い。
ついてこない足を構わずに、上半身だけで殴り掛かる。
拳は空を切り、僕は地面に転がった。
負けん!!
譲らぬ強気。
無理を承知で、立ち上がる。
折れない心。
全てが、無駄と思っていた剣道で教えられた物ばかりであった。
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