黒髪の横に立つと同時に笑いながら言った。
「アイツ何したの?」
言いながらチラッと黒髪の鼻の位置を確認して僕は前を向いた。
「あン!?」
その言葉を黒髪が言い終わるか終わらない一瞬に僕は右腕を力いっぱい右斜め少し後ろに向けて振り上げた。
この辺か!!
僕の右拳のコウに物凄い衝撃が来た。
これ程強烈な打撃を人に与えた事は記憶に無いほどまともに当たった。
前を向いていたので、鼻に当たったかは、すぐには分からなかった。
しかし、そんな事は問題では無い程の衝撃であった。
衝撃が拳に来た瞬間に不安になった。
殺したのでは…
咄嗟に黒髪の顔を見た。
予定では後ろにズズーンと倒れるタイミングである。
ヤクザ者は確かにそう言った。
黒髪と目が合った。
驚愕に限界まで見開かれた目には涙が溜まっているように見えた。
あれ?
倒れないの?
そう考える間もなく黒髪は不思議な反応をした。
後ろに倒れず、5センチほど上へビョンとジャンプした。
は!?
僕の頭は真っ白である。
次の攻撃など考えもしていない。
ビョンと跳ねたのは拳が当たってから一拍置いてである。
不思議であった。
当たれば倒れる以外、予想していなかった。
予想とは違う反応に僕はついて行けなかった。
次の攻撃を繰り出す事無く、一瞬黒髪を観察してしまった。
金玉潰しの時のように数歩相手から離れる事もしなかった。
やばい!!
そう思った時には既に遅かった。
黒髪の拳が僕の左目に、まともに当たった。
衝撃と共にプツンと頭の中で何かの音がして意識がトビそうになった。
目の前が真っ暗である。
やばい!
効いちゃった!
喧嘩の際の、殴られた痛みは、痛みとしては捉えない。
効いたか、効かないかだけである。
この時の黒髪の一撃は完全に効いた。
僕は尻餅をつきそうになった。
必死にこらえる。
何かが僕に覆いかぶさる感じがした。
それが何か分からなかったが、危険を感じた本能が拳を前に突き出させた。
くそったれ!
拳が虚しく空を切る。
しかし腕が何かに当たった。
バランスが崩れて、その何かと一緒に地面に倒れ込んだ。
暗かった視界がボンヤリ戻る。
まだだ!
立ち上がれと本能が言っている。
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